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渦巻く滄海 紅き空 【上】
九十四 瀬戸際にて
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(―――ここだっ)
連続の突きを受け流しながらも相手の隙を窺っていたネジが君麻呂の足を払う。足場を崩された瞬間を狙い、鳩尾目掛け掌底を放った。


だが胸部から生えた肋骨がその拳を防ぐ。
「くっ…!」
「……【唐松の舞い】」


骨が皮膚を突き破る。
全身の骨が一斉に身体から生える君麻呂。そのまま回転する彼からネジは離れざるを得なかった。
無数の骨は鋭く、近づいた敵を容易に切り裂く。

(まるで【回天】だ…っ)
君麻呂から距離を取り、ネジは骨に傷つけられた拳から血を払う。暗紅色の雫が宙を舞った。

ピキピキ…と身体に戻ってゆく骨。悠然と佇む君麻呂と対峙していたネジは内心自嘲した。
ネジの【八卦掌・回天】は絶対防御と称されている。
だが、全身から生やした無数の骨で攻撃及び防御に転ずる君麻呂こそ、絶対防御という呼び名に相応しいのではないか。


憂悶の情に駆られていたネジを我に返させたのは、微かな水音。
音がする方向へさりげなく君麻呂を誘導していた彼は、ちらりと視線をやった。
視界端に映る、河川。

草原の合間を秘かに流れ、徐々に大きくなってゆく水の流れを眼の端で追いながら、ネジは改めて身構える。
足下の湿り気のある地面がじり、と音を立てた。強風が両者の間を吹き抜ける。


構えたまま、なかなか動かぬネジに焦れて、君麻呂は両手を交差した。小さな管状骨が指先を突き破る。
「【十指穿弾】!」
直後、ネジ目掛けて飛んでくる指節骨の飛礫。如何なる硬質な物質も貫く威力に回転をも加わった、いわば凶悪な弾丸が十個、迫り来る。

襲い来る君麻呂の攻撃を前に、ネジは地を蹴った。後ろへ退く。
未だ速度を落とさぬ指の骨飛礫と共に、君麻呂もネジの後を追った。
(――まさか、逃げる気か?)

後退してばかりのネジを君麻呂は訝しげに見遣る。ふと横を見ると、先ほど自分が手放した骨が見えた。左肩から抜いた骨の太刀。
交戦中に手から離れ、地面に突き刺さったままのソレは、現在ネジの傍にある。


急にネジが立ち止まった。
同時に、指骨の飛礫が彼目掛けて襲い掛かる。同じく攻撃しようとしていた君麻呂の視界を青が覆った。
「なに…ッ!?」
「【八卦掌…―――」


刹那、君麻呂の指骨が巻き上がった何かに弾かれる。驚く暇も与えずに、ネジは一気に君麻呂の懐に飛び込んだ。足下でバシャッと水が跳ねる。

「――――回天】!!」




ネジを中心に迸るチャクラ。
至近距離で行われた【回天】は君麻呂の虚を完全に衝いた。咄嗟に全身の骨を硬質化する。
(……!?)

だが思ったほど硬化出来ない事実に、この時君麻呂は初めてうろたえた。
疑問を抱く君麻呂をよそに、ネジの【回天】は止まらない。むしろこ
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