Die
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スコンですか?
「ブフッ!!ゲホゲホッ!!」
噎せた……珈琲吹いちゃったよ…………あの馬鹿。
「大丈夫ですか!?」
知乃と瓜二つの女の子は慌てて駆け寄ってタオルを持ってくる。
優しい……君は優しいな。
知乃と比べて―――――お前、後で覚えてろよ。
――――――図星だったのですか? 兄様?
反論したい……だが、俺の声は届かない。
黙ってるとイライラするぞ。そもそも空気読めよ、俺はシスコンじゃない!
――――――図星でしたのなら嬉しいですわ!
図星の訳ねぇだろ! 一瞬でも信用した俺が馬鹿だったッ!
「あ、ありがとう……」
手渡されたタオルで口の周辺を拭き汚れを落とす。
ちょっと服も汚れたな。まぁ、洗濯すれば落ちる筈だし慌てる必要は無いな。
「ごめんね、手間を掛けさせちゃって」
「いえ、それは構わないのですが……」
「あの、間違ってたらごめんなさい」
「もしかして……始焉…………香風 始焉さん?」
俺は過去の記憶を失っている、喪っている。
覚えてるのは妹関連の記憶のみ。父親も母親の名前も忘れた…………失われた記憶は復元する事を叶わず。
喪われた感情は取り戻せない、還らない。
モノクロの写真……家族で撮った写真。
知乃と俺は真中で笑っている。でも、父親と母親の顔は塗り潰されている。
実際、塗り潰されている訳じゃない。俺の心が思い出す事を拒否してるんだ。
だから自然と父親と母親の写った写真を見るとモヤが掛かった様に…………消える。
昔の記憶を取り戻そうとは思わない。
感情は生きている。俺は俺のままだ、なら…………構わない。
一人ぼっち…じゃない。
知乃は俺を忘れない限り、俺は一人じゃない。
「君は……誰?」
俺を知ってるのか?
考えられる結論は記憶を失う前の俺を知っているって事だ。
「……もぉ、何年も昔の事ですからね…………忘れてしまっても仕方ありませんね」
「あ、その……ごめん」
「構いません、私の中の始焉さんに変わりませんから」
俺は言えなかった。
記憶喪失なんだ…………でも、言っちゃ駄目だ。
言っちゃ駄目なんだ。言ったら俺は、俺を許せなくなる。
「私、香風 智乃です。
小さい頃、始焉さんに沢山遊んでもらいました」
「…………ごめん、思い出せない」
記憶喪失って事を隠しつつ俺は会話を続ける。
知乃の記憶なら覚えてる俺はそれ以外の記憶を全て忘れている。
でも、知乃関連の記憶を覚えてるなら…………もしかしたら、記憶の片隅で覚えてるかも?
知乃で埋めつくされた記憶を探り、導き出した結論は。
「タカヒロさんの娘……さん?」
「そうです!思い出したんですね!」
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