第34話 Goodspeed of the East3
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ていった。
「はい。いつもの調子に戻りましたね」
「え?」
「先ほどから何か思い悩んでいたように見えたので、からかってみました」
まるで母親のような雰囲気に、カズトは思わず息を呑んだ。
「そう……ですね。忘れてました。絶対に勝てない相手のことを……」
学園に来てから、負けるという経験を今までしてこなかった。イングリットとの戦闘でも、ギリギリとはいえ勝ったし、負け犬三人衆にも苦戦すらしなかった。だから、驕り高ぶっていたのかもしれないことを、一位という絶対的強者に打ち砕かれたことで実感させられたのだ。
「まだまだ、未熟です」
「そうですか。それでは、帰るとしましょう」
憑き物を落とされたような気分になりながら、カズトは学園長の後をついていく。
その先には、来る時に使ったヘリコプターと、手提げ袋を持った一人の女性が佇んでいた。
「キャシーさん?」
「あ、カズトくん。もう帰るのかしら?」
「え、ええ。もう用事も終わったので。キャシーさんは何を?」
「私は……」
そう言いながら、キャシーは持っていた手提げ袋から本を取り出した。
それは、今朝キャシーが読んでいてカズトが面白いのかと聞いた本だった。
「これ、よかったらあげるわ」
「え、いいんですか?」
「ええ。私は他にもストック持ってるから」
どうやら観賞用、布教用と分けて持っているらしい。
「でも、なんで急に?」
それがカズトには気になった。彼女とは今朝に出会ったばかりで、こんな風に何かを貰うような間柄ではないはずだ。
「貴方は、自分には何もないと思ってない?」
いきなり自分の考えていたことを的確に言い当てられ、カズトは目を見開いた。それを見てキャシーは哀しそうに笑う。
「私には、貴方に何があったかなんて分からないけど、それでも貴方は空っぽなんかじゃないわ」
優しく笑いながら、彼女はその本をカズトに渡した。
「何かを面白そうと思う心があるなら、空っぽなわけないじゃない」
カズトはその本を受け取る。
確かに、それもそうかもしれないと思い、キャシーに答えるように笑った。
「……ありがとうございます。この本、読ませていただきす」
「ええ。感想、聞かせてね」
また来るのは、当分先のことだろう。その時までに、自分は自分の仲間達と、そしてサテライザーと共に見つけていくとしよう。
その時は、誰にも考えられなかった。
近いうちに、災厄が舞い降りるという事に。
「さぁ、ひれ伏せ愚民ども」
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