喪失
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幻歌の事がわかったんだしさ、もう休んでても誰も文句は言わないよ」
「でも……!」
どうしてもやるせない気持ちが溢れてしまう私は、アルフの静止を聞いても中々納得が出来ずにいた。どうしたものかと渋面を浮かべるアルフには申し訳ないが、こうなったら強心剤でも打つしか……などと少々危ない思考に行きかけていた。しかしその時……、
〜♪
「……おや? なんか歌声が聞こえてきたよ、フェイト?」
「そういえばシェルターの地下は繋がってるって、避難する時に母さんが教えてくれてたね。もしかしたら他のシェルターで歌ってる誰かの声が、あちこちに届いてるのかも……」
「だとしたらこの歌は前線にいる連中と、避難しているあたし達を繋ぐ旋律って訳だ。ちょっとロマンがあるね」
「うん。それにこの歌声、綺麗だよね……。さざ波みたいに透き通って耳触りが良いから、ずっと聞いていたいな……」
「だね。それに……この歌が聞こえてきたおかげで、ようやくフェイトも落ち着いてくれたみたいだし、あたしとしては歌ってる奴に感謝したい気分だよ」
なんか失礼な事を言っているアルフだが、いかんせん事実だから私の立つ瀬が無かった。いくら何でも強心剤を使おうだなんて、私ちょっと頭に血が上って切羽詰まり過ぎていたみたい。頭を冷やすきっかけになったこの歌には、私もありがたく思う。
「ただ……欲を言わせてもらえるなら、この歌が“月詠幻歌”だったら良いのにね」
「それはちょっと都合が良すぎないかい? 皆があれだけ探して見つからなかったのに、唐突に聞こえてきたこの歌にその希望を託すのは。まあもし本当にフェイトの言った通りなら、色んな意味で諸手を挙げて万々歳したいけどさ」
確かにその通りだ。とっくに喪失したと思っていた封印方法が失われていなくて、実は誰かが継承していたら、それはファーヴニルに勝てる可能性が存在している事を意味する。虚構だったはずの希望が一瞬で真実へと早変わりする訳だ。
だが……もし誰かが月詠幻歌を歌えたとしても、そう簡単にいくだろうか? ニダヴェリールを滅ぼした直接の原因はファーヴニルとラタトスクだが、間接的に管理局や管理世界、ミッドチルダの人間達も関わっている。その事実を知っていればニダヴェリールの生き残りにとって、管理世界の人間は憎悪の対象になっていて当然だ。復讐の一環としてファーヴニルのミッドチルダ襲撃をあえて見逃し、後で封印しようと考えてもおかしくない。というか普通に考えて、こっちの方があり得そうだ。
でも……この歌からはそのような気持ちは感じられない。むしろ尊い意志……それと、どこかお兄ちゃんと似た慈愛を感じる。私の胸の奥が温かくなってきて、もしかしたら歌っている人は、お兄ちゃんと近しい人かもしれない。ま、ニダヴェリール出身じゃな
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