喪失
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、少し嬉しく思った。私はわからなかったが、市民達はこの歌が自分達の心を癒している事にそれぞれ気づき、何も言わずに清聴してくれるようになる。やがて一曲歌い終わると、スバルはぴょんぴょん飛び跳ねながら喜びを露わにしていた。
「おねーちゃん、すっごく綺麗だったよ! もっと聞きたい!」
「え、もっと? ……わかったよ、じゃあ次は……あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅとぅー……」
「待ってそれは取り返しのつかない事態が起きそうです。理由はわかりませんが、ちょっとご遠慮願います」
妙に血の気が引いたギンガが静止してきたので、この曲はやめておく事にした。まぁ曲自体はとても良いんだけどね。気のせいか10年後なら何かに効果的なんじゃないかって思ったりする。そう思った理由は不明だけど。
「それじゃあ……さっきの歌は一緒に出来なかったから、今度は一緒に歌えるものにしよっか」
「うん!」
という事で、今度は平和を祈る歌……子供にも歌いやすいように歌詞自体は簡単なんだけど、とても心に残る曲を選択した。
「ラ〜ララララ〜ラ〜ララララ〜、ラ〜ラ〜ララララ〜♪」
基本的に簡単な曲調なので、覚えてしまえばすぐに歌える。スバルとギンガは私と一緒にリズムを合わせて歌い出し、絶望的な状況でも笑顔になって未来を信じ、心に太陽を浮かび上がらせていた。たった3人の歌……元は音の波であり、ただの文章のはずだった。だが一緒に歌えば……心を世界に表現できる歌は、あらゆる絶望を吹き飛ばす神秘的な魔法にもなってくれる。
『………ラ〜ララララ〜♪』
驚いた事に……市民達も歌い始めた。パニックを起こしてた人も、落ち込んでた人も、皆……。最初は私達以外の誰かがハミングし始めたのがきっかけだった、そこから伝染していくように歌声が広がり、やがてほとんどの市民が声を揃えて旋律を奏で始めた。この歌が……彼らの希望をもう一度照らしてくれた、未来を再び信じられるようになったのだ。
「最初は馬鹿馬鹿しいと思ってたけど、実際に歌ってみると元気が出るな!」
「ええ、おかげでまだ諦めるのは早いって気付けた。暗くなって落ち込むより何百倍も良いわ!」
「こうなったら外で戦ってる連中に負けないぐらい声を張り上げてみるか! 戦えなくとも生きる気持ちは誰にも負けないって伝えるんだ!」
さっきまで絶望に打ちひしがれていたはずの市民達が、徐々に元気を取り戻してきた。それは自分本位の生存欲や、出られない事で自棄を起こしたなどとは全く異なる。パニックでバラバラになっていた心が……段々一つにまとまってきたのだ。
大破壊の経験から、私は次元世界の人間とは分かり合えないと思っていた。言葉が、考えが、心が全然違うから、絶対に同じ気持ちになる事なんてあり得ない
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