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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十七話 反撃
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ハイネセンに向かうという方法も有る。しかし各個撃破されるだけで終わるだろう。ならば今のままの方が無益な死傷者が出ないだけましだ。
敗けたな、また思った。今回だけじゃない、シャンタウ星域、いやイゼルローン要塞攻略、あれが失敗だった。あそこでローエングラム伯を斃しヴァレンシュタイン司令長官を失脚させる、そう思った。イゼルローン要塞がこちらに有れば防御に徹して一息吐けるとも思った。だがそうはならなかった……。
ヴァレンシュタイン司令長官の策略に乗せられたとはいえ同盟市民は帝国領侵攻を選択し遠征軍はシャンタウ星域の会戦で大敗した。あれで同盟の命運は決まってしまった。歴史上勝ってはいけない時に勝ったが故に国家が滅ぶ事が有る。何のことは無い、私がやった事がそれだった。同盟を滅ぼしたのは帝国ではない、私だ。
もし、イゼルローン要塞を攻略しなければあの馬鹿げた帝国領侵攻は無かった。であれば同盟軍は大きな損害を受けずに済んだだろう。同盟軍が健在であれば帝国の内乱も無かった筈だ。門閥貴族も健在だった。つまり帝国はこれ程の規模の軍事作戦を起こせるような余裕は持てなかった。
「閣下、総司令部から通信が」
グリーンヒル大尉の表情が明るい。戦局の打開に期待しているのだろう。
「分かった。スクリーンに映してくれ」
スクリーンにビュコック司令長官とグリーンヒル総参謀長の姿が映った。二人とも表情が厳しい、グリーンヒル大尉、期待は出来ない様だ。
互いに礼を交わすとビュコック司令長官が話し始めた。
『統合作戦本部から命令が出た。至急ハイネセンに戻れとの事だ』
艦橋がざわめく、静かにするようにと注意した。静まるのを待ってグリーンヒル総参謀長が後を続けた。
『帝国軍の別動隊がハイネセンに近付いている。商船がバーミリオン星域の近くで帝国軍の別動隊に遭遇した』
また艦橋がざわめいた。来るべきものが来た、分かっていた事だがそれでも衝撃が有った。
『ハイネセンでは混乱が起きている。大規模なデモも起きている様だ。ハイネセンを守るために軍を呼び戻せと市民達は政府に要求している』
総参謀長の言葉に彼方此方から溜息が聞こえた。憤懣の色が有る。勝手な事を言う、そう思ったのだろう。ここから撤退など簡単に出来る事ではない。また許す相手でもない。
「政府の対応は?」
問いかけるとビュコック司令長官が力無く首を横に振った。
『どうにもならんらしい。それに、我々は帝国軍と戦う事も出来ずにいる。市民達が呼び戻せというのはそれも有るようだ』
「……」
また溜息が聞こえた。今度の溜息には力が無かった。
『ハイネセンに撤退する。そこで最後の一戦を挑む事になるだろう』
「……」
『ヤン提督にはウランフ提督と共に最後尾を頼む』
「……分かりました」
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