第二百三十話 本能寺へその六
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「そう思って呼んだ」
「左様ですか」
「御主とは長い付き合いじゃ」
それこそお互い幼い頃からだ、そうだったというのだ。
「そして御主の資質はな」
「それがしの」
「わしに比肩する」
「それは幾ら何でも」
「よい、わしが思うことじゃ」
謙遜はよいというのだ。
「御主はそれだけの者じゃ」
「吉法師殿がそう思われるからこそ」
「御主に話すのじゃ」
そうだというのだ。
「これからな」
「そうなのですか」
「それでじゃ」
「これよりですな」
「御主に話す、よいな」
「さすれば」
家康は信長の言葉に真剣な顔で頷いた、そしてだった。
信長が茶を淹れる間だ、彼と話をした。そこで。
信長からだ、家康に言った。手を動かしつつ。
「天下には我等がおるな」
「はい」
家康は信長に確かな声で答えた、部屋の中は静かで何も聞こえない。外の気配も何一つとしてしない。二人の気以外はない。
「しかしですか」
「うむ、我等以外の者もおる」
「そしてその者達は」
「裏におるのじゃ」
「天下のその裏に」
「思えば何にでも表と裏があるのう」
この世のあらゆるものにというのだ。
「そうじゃな」
「そしてその裏にですか」
「ある者達がおる、記紀にあるな」
「まつろわぬ者達ですか」
「そして鬼も土蜘蛛もな」
そうした者達もいるというのだ。
「おるな、そしてその鬼に土蜘蛛が」
「それじゃ」
信長の声がここで強くなった。
「古来よりそう言われていた者達がおった」
「そのまつろわぬ者達が」
「その者達が天下の裏におりよからぬことをしてきた」
「そういえば」
家康はここまで聞いてはっとなった、そして。
信長にだ、その顔で言ったのだった。
「先程の我が家のよからぬ噂話も」
「二郎三郎、そして築山殿のな」
「あれもですか」
「もう一つあったであろう」
「一向宗ですな」
家康は信長の言葉にすぐにこの者達のことも察した。
「あの者達も」
「わかったな」
「道理で妙に思いました」
家康はそのはっとした顔で話した。
「一向宗の色は灰色、しかしあの者達は」
「闇であったな」
「はい、妙なことに」
「我等が戦った一向宗もそうだった」
「そうでしたな、では」
「そうじゃ、その者達もな」
信長は家康に強い顔で話した。
「おそらくじゃが」
「まつろわぬ者達であり」
「天下の裏から蠢いてじゃ」
「よからぬことをしよとですか」
「しておるのじゃ」
「今もですか」
「その闇の色の者達は他にもおった」
今の信長にはわかっていた、ここまで。
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