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護られた首
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第一章

                    護られた首
 この城には昔から言い伝えがある。二の丸にある井戸についてである。
 この井戸は不思議な井戸で覗き込んでも顔が見える場合と見えない場合があると言われている。見える場合は何でもないが問題は見えない場合である。
 見えない場合はその者は間も無く死ぬと言われている。それもどうしてかはわからないが首が落ちて死ぬと言われている。だからこの井戸を覗き込む者はいない。誰もそんな死に方をしたいと思わないからだ。
 たまに酔っ払いや蛮勇を奮う者が覗き込むが見えるのは自分の顔だ。だからこれは単なる噂だという話もある。
 それでもたまに自分で確かめようという者もいる。大槻千秋もそうした中の一人だった。
 黒い髪をボブにした女の子だ。顔は少し丸みがありあどけない顔をしている。顔立ちこそは無邪気であったが性格は無鉄砲であった。無鉄砲な彼女だからこの井戸の話を聞いて動かない筈がなかった。
「やってみようかしら」
「やってみるってあんた」
 その話を聞いて友人の坂本美春は顔を顰めさせる。背は彼女よりも大きく赤がかった紙を肩を覆う長さで段で切っている。それを見ていると何か派手な印象を受けるが顔立ちはおっとりとしたものであった。二人は並んで立っている。その城の二の丸に向かって歩いていた。
「あの井戸覗き込むつもりなの」
「駄目かしら」
「駄目も何も」
 美晴はその話を聞いて顔を顰めさせる。
「あんた死にたいの?」
「死ぬわけないじゃない」
 千秋はにこりと笑ってそれに返す。
「噂よ、あんなの」
「だといいけれどね」
 美晴はそれを聞いてもまだあまりいい顔をしてはいない。いい顔どころか顔を顰めさせ露骨に彼女を咎めるようであった。
「大変なことになっても知らないわよ」
「美晴って本当に心配性ね」
 そう返して笑う。
「そんなの有り得ないのに」
「有り得ないっていうけれどね」
 美晴は口を尖らせて言葉を返す。
「見えなかったらやばいわよ」
「だから面白いんじゃない」
 そう二人に述べる。
「見えなかったらどうなるか」
「首落ちたらどうするのよ」
「首が?」
 千秋はその言葉に笑う。
「私の首がごとんとね。落ちるっていうの?」
「そうして死ぬの」
「だからそれは噂じゃない」
 それを笑って否定する。否定しながらも心の中でそれを確かめたいと思っているのだ。だから今それをしようとしているのである。
「噂かどうか、ね。確かめたくもあるし」
「言っておくけれどね」
 美晴は彼女にまた言った。
「首落ちたら死ぬのよ」
「それはわかってるわよ」
「どうだか」
 聞き入れようとしない千秋に憮然とした顔を見せてきた。
「わかったものじゃないわ」
「まあまあ」

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