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逆さの砂時計
生の罪科 3
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どうも私はそういうの苦手だ。自力で治せよな!」
 また。にかっと笑う。
 ぱしぱしと私の背中を叩いてから、ワンピースをクローゼットに仕舞う。
 その姿を見て、胸の奥にふわりとした温かいものが灯る。
 ……危険だ。私は……彼女に触れようとした。
 「善を殺した」「この手で」。
 忘れてないか? 私はレスターの罪を償う為に生きている。「クロスツェル」は戒め。生涯を女神アリアに捧げると誓ったんだ。
 よりによって聖女に触れたいなど、ありえない。ありえてはならない。
 また殺すつもりなのか、私は!!
 「……病気ではありませんよ。大丈夫です」
 「なら良いけどなー」
 ……祈ろう。私の願いは彼女の幸福。善の幸福。
 どうか、ロザリアの笑顔が途切れることなく続きますように……


 ……声が聞こえる。
 日に日にはっきりと言葉を紡いでいく、欲に塗れた汚らわしい自分の声。
 ロザリアに触れたいと、ロザリアを抱き締めたいと渇望する何処までも腐った自分の声。
 ロザリアが無邪気に笑う度濃くなる、膿にも似たドロドロの感情が、滲んで積もって私を埋めて行く。
 ああ……私はどれだけ名前を変えても、罪を償おうとしても、結局罪人なのか。
 中央教会の同僚達は何一つ間違っていない。私は汚らわしい。魂から既に存在を誤っている。
 女神アリアよ、早く私を浄化してください。ロザリアを私から護って。今度こそ善を救って……早く……!……
 『苦しいか』
 ……苦しい。もう嫌だ。
 『逃れたいか』
 笑顔が見たい。ロザリアの笑顔を、全部私に向けて欲しい。
 駄目だ。彼女を殺してしまう!!
 でも、嫌だ。あんな風に誰かと親しむロザリアは見たくない。
 私だけを見て、笑って。
 何処まで罪を重ねれば気が済むんだ私は……っ!!
 でも私は……
 『その悩み、俺が引き受けてやろう』
 ……引き受け、る? 罪を……この、何処までも腐り切った魂を?
 ……それは……それもまた……罪であるとしても……なら、ロザリアを、私から護って 。私はもう 耐えられ ない 。
 ロザリア……



 早朝の教会。
 意識ははっきりしている。
 隣には私と契約した悪魔ベゼドラ。
 私の欲を総て引き摺り出して、そして女神アリアを……ロザリアを……この体で、汚した。
 汚した。
 傷付けた。
 あの無垢な少女を。
 仕えるべき絶対の神を。
 汚らわしい、この体で……っ
 「ぐっ……ぅ……」
 泣いていた。
 ロザリアはずっと泣いていたのに!
 何故繰り返した!?
 今度こそ……クロスツェルとして、今度こそ善を助けたいと、あれだけ思っていたのに!!
 「お母さん……テオ……私は……僕は!」
 『クロスツェル』
 「……っ!?」
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