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逆さの砂時計
生の罪科 3
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 聞くたびに、何故か私のほうが落ち着かなくなる、彼女の言動の数々。
 いつか取り返しがつかない事態に陥るのではないか。
 説教の間ですら、気が気でない。
 彼女を助けるにはどうしたら……

「おい」
「え」

 声に驚いて振り返れば。
 前方へ逃げた筈の少女が、いつの間にか背後に立っていた。
 声を掛けようとして、掴まれた左腕に喉が詰まる。

「あ」

 袖をめくられ、手首の外側に彼女の右手が翳され、光が零れ落ちて。
 追いかけている途中で付いたらしい傷が、すぅ──っと消えた。

「…………っ」

 こんな……袖で隠れる程度の小さな傷に気付いて、戻ってきたのか。
 あれだけ嫌だと逃げていたのに?
 嫌なことをする人間の、こんな小さな傷を心配した?
 こんな、私の。

「ありがとう、ございます」
「あ、後は知らん! 知らんからなっ!」

 付いて来るなよ、ばーか! と。
 赤面で言い捨てて、またも走り去る少女に笑いが込み上げてきた。

 なんだ、彼女は。
 なんなんだ。

「ふ、ふふっ」

 なんて綺麗で、なんて可愛らしい女の子なのか。
 温かい。
 優しい。
 浮浪児としては、レスターと同じことをしている筈なのに。
 彼女の行為を責める気にはなれない。

 彼女は違う。
 悪じゃない。
 真性の善だ。
 見た目以上、力以上に、心が綺麗だ。

「だからこそ、彼女をこのままにしてはいけない」

 助けたい。
 彼女を助けたい。

 ……でも、何故かな。
 追いかける時間が少し、楽しくなった。



 分からないもので。
 楽しい時間は、それからわりとすぐに終わりを迎えた。
 割れたガラス瓶を刺された時は、さすがに痛かったが。
 彼女の、ロザリアの手を、離さなくて良かった。

 ロザリアは教会に居る。
 もう、彼女が容赦ない飢えや、無慈悲な暴力に曝される心配はない。

「これ……? マジで、これを着るの?」

 手渡した純白の袖無しワンピースを掲げて。
 ロザリアは、どこか不満そうに顔を歪めた。
 これは、彼女の普段着が少ないのは可哀想だと通いの信徒達に指摘され、それもそうかと追加で購入した物だ。
 ロザリアの好みが分からないので、無難そうな物を選んだのだけど。
 やはり飾りが一つも付いていないのは、少々味気が無さすぎるだろうか。

「これじゃあ汚れがめっちゃ目立つ。掃除の時とか、いちいち着替えろっていうんじゃないだろうな? だとしたら、時間と作業着の無駄だぞ」

 なんと。ロザリアは合理主義だった。

「汚れたら洗えば良いのですよ。気になりますか?」
「そりゃ、こうまで白いのが汚れるのは、ちょっとなあ……
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