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逆さの砂時計
生の罪科 3
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落ちていた……、のに。
 「あああもう、私のバカーッ!」
 光が消え、血が消え、傷が消えて。
 頭を掻きながら全力疾走でその場を去る少女の後ろ姿を、茫然と見つめた。
 「……アリアさ、ま?」
 白金の髪。薄い緑色の虹彩。傷を癒した光。
 総て……総てが女神アリアそのもの。
 いや、でも待て。
 彼女は幼い少女に見えた。
 髪は短くなかったか。着ていた服は傷んで裾が解れていたし、靴は片方しか履いていなかったし、穴だらけだった気がする。肖像の女神アリアとは全然違う。
 でも
 「……綺麗だ……」
 今まで会ったどんな人間よりも、ずっとずっと綺麗だ。
 彼女は何? 彼女は誰?
 女神アリアによく似た少女。
 貴女は 誰?



 「待ってください! もう少し話を……」
 「うだあああ! ウザイウザイウザイ! こっちに用は無いって言ってんだろうがぁ!!」
 偶然会う。逃げる。追い掛ける。見失う。捜す。会う。逃げる。追い掛ける。見失う。ちょっと会わなくなる。偶然会う。逃げる。追い掛ける。見失う。
 殆ど毎日同じ事の繰り返し。
 彼女は浮浪児だ。それも記憶を失っているらしい。名前を尋いて「んなモン無ぇよ!」と叫ばれた瞬間の衝撃は忘れられない。
 彼女はきっと、女神アリアに遣わされた聖女だ。でも、何かがあって記憶を失ってしまった。自分の役目と立ち位置を忘れてさ迷ってる。だからこんなにもボロボロになってしまったのだ。
 助けなければ。この綺麗な少女を放置してはいけない。助けなければ。
 「とにかく教会へ来てください!」
 「嫌だ! 断る! 帰れ! ハウス!」
 ……また逃げられた。
 しなやかで素早い動きは、まるで猫だ。少しつり目な所や、全身の毛を逆立てるが如く威嚇する様は、決して人間に懐かない気高い野良猫を思わせる。
 だけど、彼女は猫ではない。
 傷は癒せても、怪我をしない訳じゃないのに。
 彼女の噂は時々耳に入る。
 何処かの商品を盗んだ。何処かの大男と言い争ってた。裏路地で突然消えた。何処かで楽しそうに笑ってた。聞く度に、何故か私のほうが落ち着かなくなる、彼女の言動の数々。
 いつか取り返しがつかない事態に陥るのではないか。礼拝の時ですら気が気でない。
 彼女を助けるにはどうしたら……
 「おい」
 「え」
 声に驚いて振り向けば、前方へ逃げた筈の少女がいつの間にか背後に立っていた。
 声を掛けようとして、掴まれた左腕に喉が詰まる。
 「あ」
 手首の外側に彼女の右手が翳され、光が溢れ落ちて……追い掛けてる途中に付いたらしい傷がすぅっと消えた。
 こんな、袖で隠れていた傷に気付いて戻って来たのか。あれだけ嫌だと逃げていたのに?
 嫌な事をする人間の、小さな傷を心配した?
 こんな
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