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街路で
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第一章

                     街路で
 メキシコはかつてはインディオだけの国だった。スペインによる侵略によりそれは終わった。
 そしてインディオの文明も文化も信仰も何もかもが破壊されてしまった。後に残ったものはまさに何一つとしてないといった有様だった。
「徹底的な破壊だった」
 俗にこう言われている。スペインのこの行動はそれこそ現代に至るまで批判されていることである。しかしこの話はそうしたスペインに関するものではない。 
 メキシコシチー。そのメキシコの首都である。この街のある老人が語ったことである。
「この街はあれなのじゃよ」
「ああ、知ってるさ」
「昔の話だろう?」
 若い明るい顔の男が二人いた。彼等はその老人の話を聞いている。見れば老人の顔も肌の色も完全にインディオのものである。それに対して若い二人は如何にもといった感じのメスティーソだった。口髭こそないもののその表情はまさにメキシコ人のものだった。
「ここはアステカの首都だったんだろう?」
「もう幼稚園の頃に親父に教えてもらったぜ」
「そしてじゃよ」
 老人はさらに二人に対して言うのだった。
「この街には鬼がおったのじゃ」
「鬼って!?」
「そういう話もあったのかよ」
「そうじゃ。人の血を吸う吸血鬼がじゃ」
 いたというのである。このメキシコにも。
「おったのじゃ。かつてはのう」
「アミーゴって言う吸血鬼か?」
「何か想像できないな」
「だよなあ」
 二人は老人の話を聞いてまずは顔を見合わせて言い合った。確かにラテン、それもスペイン系だと吸血鬼は似合わないものがある。
「うちの国にも吸血鬼がいたってな」
「何かな」
「しかしおったのは間違いない」
 老人の言葉は続く。
「夜、月のない日にそれは出て来るのじゃ」
「夜にかよ」
「しかも月がない時にだな」
「その通りじゃ。十字路に姿を現わす」
 場所もここで話された。
「前からゆっくりと。十人程来るのじゃよ」
「何か数が多いな」
「十人ってな」
「それに見つかったならばじゃ。動きが止まりそのうえで」
「血を吸われるっていうんだな」
「その十人がてらに」
「その通りじゃ」 
 まさにそうだというのである。彼等にしても聞いていて気持ちのいい話ではなかった。こうした話は聞いているだけで自分がそうなると思ってしまうからである。
「じゃから夜の月のない日にはじゃ」
「十字路は歩くなってか」
「そういうことなんだな」
「いや、一つだけ逃げられる方法がある」
 ところがここで老人は二人に対してこうも言ってきたのだった。
「逃げることもな。できるのじゃよ」
「何だよ、逃げられるのか」
「それを聞いて安心したよ」 
 まさに我がこととして話を聞いてい
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