4部分:第四話
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殺す必要がありますか」
その声が大きくなった。
「弁護士さん、私を信じて下さい。私は無実です」
「わかりました」
形式的な言葉であるがそれに応えた。
「貴方は必ず私が救い出してみせましょう。いいですね」
「有り難うございます」
これでその場は終わった。彼は事務所に戻り別の仕事に取り掛かった。今度は今回の裁判で選ばれた陪審員達に関する資料である。十二人分の資料が彼のデスクの上に置かれていた。
彼はそれを見ていた。一人一人の経歴や癖、考え方等まで書かれている。彼はそれを見ながら考えていた。今後の裁判の進め方を。
「どうだね、進み具合は」
所長が資料に目を通しているヘンリーに声をかけてきた。
「順調といっていいですね」
彼はそれに顔を上げてそう答えた。
「陪審員にもおかしな人物はいないようですし。容疑者にも殺す動機は見当たりません」
「ふむ」
「おそらく無罪を勝ち取れるでしょう」
「それはいい。だが一つ不思議なことがないかね」
「不思議なこと」
「この事件に関してだ。何か思うところはないかね」
「そうですね」
彼はそれを受けて考え込んだ。
「彼の妻の遺体の解剖結果を見てみますと」
「ふむ」
「明らかに致死量の薬を飲んでいます。それまでとは全く違った量で」
「自分で飲んだのかね」
「そうですね。飲んだ時間と死亡時間を考慮しますと。口の中も乱れた形跡はありませんし」
「間違っても容疑者が無理矢理飲ませたというわけではないのだな」
「検死結果を見る限りそうですね。私はそう思います」
「では自殺ということになるな」
「ですかね」
彼はそれを聞いて首を捻らせた。
「そう判断するにはまだ証拠が揃ってはいないと思いますが」
「容疑者の妻は長い間不眠症に悩まされていたそうだが」
「はい」
「他にも病気はなかったか」
「あっ」
ヘンリーはそこに気付いた。
「それも不治の病とか。それなら自殺の理由がわかるな」
「病気を苦にしての自殺、というわけですか」
「そういったラインからも考えていった方がいいかもな。どうだ」
「わかりました。調べてみます」
彼はそれを受けて容疑者の妻のことに関しても調査を続けた。そして病院で予想通りのことがわかったのであった。
容疑者の妻は癌であった。それも末期の。何年もそれで苦しんでいたらしい。
これで決まりであった。彼は陪審員達にそれを言い、資料を持って裁判に挑んだ。その結果見事無罪を勝ち取ったのであった。
これで彼の名はあがった。拍手の中裁判所を後にしようとするところで彼を呼び止める声があった。
「やるじゃない」
それは女の声であった。低く、何処か知的な印象を受ける。見ればそこにグレーのスーツとスカートに身を包んだブロンドの女性が立ってい
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