3部分:第三話
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ある。少なくとも彼の頭の中にあるワシントンと今のワシントンはほぼ一緒であった。
「あの時は親父が大統領だったかな」
アニーの中からホワイトハウスを眺めながらそう呟いた。
「息子が大統領になっても外見は変わりはしないんだな」
世の中とは案外そういうものなのかもしれないとも思った。アメリカという国は変わるのが早いと言われている。しかし実際にはそれ程変わりはしないものなのかもしれない。彼の住んでいるボストンなぞは独立戦争前の空気がまだ残っている程だ。東部ではかなり古風な街とさえ言われている。
ホテルを見つけてそこにアニーを置いた。そしてぶらりとワシントンを回ることにした。目に入るその街並は彼の記憶の中にあるワシントンのままであった。歩いている人々も同じである。
ショッピングモールに入るとボストンより品揃えはいいように思われた。だがニューヨーク程ではなかった。アメリカの首都ではあるが最大の街ではない。だからであろうか。
しかし食事は違っていた。色々とある。こっちはニューヨークでもそうだが彼はどういうわけかワシントンの味の方が好きであった。ニューヨークの料理はどれも大味な気がするのだ。メトロポリタン歌劇場に行った時帰りに食べた中華料理がかなり大雑把な味だったのはよく覚えていた。イタリア料理も日本料理もニューヨークのそれは大味に思えたのであった。それがアメリカの料理であり、ニューヨークの料理だと言われればそれまでだが彼は味には少しうるさかった。繊細な料理が好きなのである。
「こっちの料理はそうでもないからな」
とりあえず何処に入ろうかと探し回った。中華料理もいいしタイ料理もいい。何故か今はそうしたアジアの料理が食べたかったのだ。
ふと韓国料理の店が目に入った。ハングルで何やら書かれている。彼はハングルは読めないが横に書かれている英文を見た。するとそこには料金まで書かれていたのだ。
「成程な」
見ればかなり安かった。味はどうかわからないがその値段が気に入った。しかしそこで一つ気になることがあった。
「辛過ぎないだろうな」
繊細な料理が好きなのである。韓国料理はいささか辛さが強い。それを考えるとどうかと思った。だがそれよりも店の中から漂ってくる美味そうな匂いに惹かれた。彼は焼肉は度々食べている。好物の一つであるのだ。
「ここは入ってみるか」
そう決心して中に入った。すると流暢な英語で挨拶が返ってきた。
「いらっしゃいませ」
「うん」
彼も英語で挨拶を返した。そしてカウンターに座って店の者に尋ねた。
「ビーフでいきたいんだけれど。これを全部持って来てくれ」
「かしこまりました」
コースメニューを頼んだ。そして暫くしてタレに漬けられた赤い肉が運ばれてきた。網の下のガスに火が点けられる。彼はそれを見ながら言った。
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