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相模英二幻想事件簿
File.1 「山桜想う頃に…」
\ 不明
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「…ここは…?」
 目を覚ますと、そこは何もない場所だった。真っ暗な闇だけが存在し、自分すらも闇が浸食したかのような錯覚に襲われる。

ピチャン…

 そんな中、私の後ろから水の滴り落ちる音がしたため、私は後ろを振り返った。
 辺りは闇に覆われているはずだが、そこに女がいることが分かった。そこだけが何だか薄ぼんやりと明るく感じたからだ。
「すみませんが…ここはどこでしょうか…?」
 私は何とはなしに、そこへいた女に聞いてみた。他に人影はないし、私にはそうするしかなかったのだ。
 だが…私に声を掛けられた女が徐に顔を上げた時、私は自分の愚かさを心底呪った。
「あ…あぁ…!!」
 女の顔を見て、私は声を挙げることすら出来ない程の衝撃が走った。
 その女の顔には…額から口までにかけて骨の奥まで見えようかと思える深い傷があったのだ。その傷から血が流れおり、私が聞いた水音は、その血が地面に滴り落ちる音だったのだ…。
「何故…その様な顔をなさるのですか…?」
 女が口を開いた。私はゾッとし、目を見開いたまま身動きすらとれずにいた。まるで蛇に睨まれた蛙さながらだ…。
「私が…そんなに恐ろしでしょうか…?」
 女は再び口を開き、私に質問を投げ掛ける。だが、私にそれを答える勇気などなかった。真ん中から半分になっている女の顔…。唇すら真っ二つになっていて、中から歯と歯茎の一部らしきものも覗いている…。女が喋ると同時に、それが不規則に見え隠れする様は、私の精神を冒すには充分な恐怖を与えていた。

- こんな状態で…喋れる人間がいるものか…! -

 私は胸のうちではそう思うものの、それを口に出して言えはしなかった。しかし、女はそれを感じ取ってか、暫くして涙を流し始めたのだった。
「悔しい…憎い…。そして…哀しい…。私はただ…息子を平等に愛してほしかっただけ…。私なぞどうでもよかった…。順番が最下位でも…同じ息子として…愛してほしかっただけ…。」
 私には分からなかった…。この女が何を言っているのか…いや、一体誰に語りかけているのかすら分からなかったのだ。
「何故…本家に迎えて下さらなかったのでしょうや?あの子も…旦那様の息子ではありませぬか…!」
 悲痛な叫び…我が子を愛する親の声…。その言葉を聞いて、私はやっと理解することが出来た。彼女は…堀内家当主の妾だった女…。
「ハルを…お忘れですか?旦那様が自らこの傷をお付けになられたのに…。」
 どうやら堀内家当主の誰かと私を間違えているようだ…。だが、この状態でどう誤解を解けば良いものか…。
 私は何とか誤解を解こうと思案を巡らせたが、不意に視界が開け、思考を中断せざるを得なかった。
「あれは…僕…!?」
 いや…違う。良く見ると、あちらが幾分面長だ…。しかし、随
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