File.1 「山桜想う頃に…」
\ 不明
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分と似ていて私は驚いた。確かに、ハルと名乗った女が間違える訳だ。これは恐らく、そのハルの記憶なのだろう…。
「あなた…何てことを…!」
「仕方ないのだ…こうするしかなかった…。」
彼らの前には、血塗れの女が倒れていた。目をカッと見開き、立ち尽くす二人を睨み付けているかの様だ…。
「私とて貴方様の妻。妾が居たとしても、何を諌めようものですか。」
「それは分かっている。だが…」
「お春さんは妾だとしても、貴方様を深くお慕い申しておりましたのに…。何故この様なことに…。この私にさえ、お話し頂けぬことでしたのでしょうか?」
「トヨ…。こやつ、息子を分家の養子にしたにも関わらず、お前を亡き者にしようと企てておったのだ。そこまでしようとは…露程も思わなんだが…。」
これは…ハルが殺された場面…なのか…?男は日本刀を握り締め、女はその惨状に同様している。幽かに揺れる蝋燭の明かりが、室内を淡く映し出している。その光が、死したハルの見開かれた瞳に揺めき、まるで二人をずっと睨み続けているようで…背筋がゾッとした。
「染野!染野は居らんか!」
トヨと呼ばれた女に散々窘められた後、男は使用人らしき者を呼んだ。呼ばれた者は直ぐに駆け付け、主の部屋の前に来た。
「旦那様、お呼びで御座いますか。」
「染野…他の者は誰も居ぬか。」
「はい。既に下がっており、私だけに御座います。」
「入れ。」
男は端的にそう告げると、染野は障子戸を開いてスルリと中へ入った。恐らく、戸を開く前に気付いていたかも知れない。あれだけの血が流れているのだから、かなり臭っているはずだ。それに…障子戸にも血が飛び散っているのだから、気付かない筈はないだろう…。
「旦那様…これは一体…。」
「何も申すな…。」
眉間に深い皺を寄せて問う染野を、男は小声で制した。だが、その声は有無を言わせないだけの力があったため、染野はそれ以上の追求を止めた。
「染野…この亡骸を、あの櫻華山へと葬ってまいれ。いいか…誰にも見咎められぬでないぞ。」
そう言われた染野は頭を下げて「畏まりました。」と言うと、一旦その身を翻して部屋を出た。暫くして、その手に布を持って戻って来たのだった。彼はその布でハルの亡骸を包み込むと、早々にそれを抱えて屋敷を出ていったのだった。
「案ずるな。ハルは…病で死んだのだ。あれの墓も作らせる。これで…よかったのだ…。」
その場に座り込んで、未だハルの亡骸があった場所を虚ろな目で見詰めるトヨに、男はそう言った。トヨは男を見上げ、弱々しい声で返した。
「旦那様…もし、これが正吉様に気付かれでもしましたら…。」
「大丈夫だ。あやつとて馬鹿ではない。知ったとしても、当主になろう家をみすみす絶やす真似はすまい。それより、この血を消さねばならん…。」
「そう…です
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