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「それじゃあ行ってきます」
我が家のように慣れ親しんだ(つもりの)宿に手を振って出立する。
暇をしていた店主のエメリッヒと、看板娘のエマちゃんが送り迎えしようと入口まで来てくれた。
自分が泊まる宿には、人気の少ない空気で閑散としていた。
夜の顔である酒場の時は人が一杯でごった返ししていたが、朝の顔になるとただの宿なのでほとんど客らしい客はいなかった。
代わりに、酔い潰れて宿部屋に放り込まれていた客が目を覚まし、宿に金を落として早々に帰宅していく姿をチラホラと見かける。
「ふむ、そうして見ると一応は傭兵だね」
宿の店長であるエメリッヒはそんな事を言ってきた。
今の自分の姿は見た目だけでも傭兵らしくなっている。
お財布様からなけなしの金を使い、何とか安物の防具と安物の剣を購入して最低限の装備を揃える事が出来た。
少なくとも胸周りを守る防具と剣一本あれば、何とか傭兵として見てくれる。
まさか、素手で戦えるわけがないからね…。
ん?
「本当に傭兵だったのね」
「…信じてなかったの?」
エマちゃんは本当に今更ながらそんな事を言ってきた。
かれこれ一週間も滞在しているのに、最初の時でも、面談が通った時も、指示書が来た時も、事あるごとに傭兵だと自己主張していたのにいまいち信じてもらってなかったようだ。
「剣も無いのに、店にやってきてご飯を食べて倒れるから新入りの浮浪者か何かかと思ったわ」
うぐぅ……。
エマちゃんの言葉の毒が痛い。
けれど否定できない。
いや、そう言われる理由もわからないわけじゃない。
最初にこの宿を訪れた時はかろうじて胸当てだけは残っていた。
しかし昨日に至るまで武器も防具もない格好だったのだから、もはや傭兵とは呼べないような有様だった。
だが先日防具と剣を購入し、本日ちゃんと装備してお披露目したことで、ようやく傭兵レヴァンテン・マーチンとして認識して貰えたというわけだ。
悲しい…。
「で、これから戦いに行くんでしょ? すぐに死んだりしない?」
「すぐに戦うわけでもないし、整理するだけの仕事だからそうそう怪我したりはしないよ」
傭兵とは戦があれば突っ込む命知らずと思われがちだけど、全部がそうというわけではない。
傭兵は確かに雑兵として雑に扱われる事も多い。
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