File.1 「山桜想う頃に…」
V 同日 PM8:56
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して、時折この湯を頂かせてもらっているのです。」
私はそれを聞き、この旅館が入浴だけでも客を入れてるのだと考えた。まぁ、温泉宿ではよくある話だから、何が不思議ということもないが。
「堀川さん。つかぬことを伺いますが、その傷はどうして…?」
藤崎も気にかけてたらしく、傷痕について堀川へと尋ねた。すると、堀川は苦笑いしながら「若気の至りというものですよ。」と短く返した。何があったか知らないが、触れられたくない過去なんだろう。
だが不意に…私はこの堀川に妙な違和感を感じた。なんと言っていいか解らないが、何となく生気が感じられないのだ…。目の前にいるんだが、いない…矛盾しているが、そんな感覚にとらわれる…。
「して、あなた方はどういったご関係ですかな?」
何だか口調も古臭い気がするなぁ…。この堀川という男、見た目は二十代半ば辺りにしか見えないんだが、まるで老人と会話しているように思えてならない。
「私達は大学のサークルで知り合ったんです。と言っても大学は別で、要は個別の大学同士で催されたイベントで知り合ったんですがね。」
「サークル…?それは何ですかな?」
サークルが通じない…。これくらいは普通知っていると思うんだかなぁ…。
「サークルって言うのは、まぁ…クラブ活動みたいなもんですよ。」
私がそう答えると、堀川はまたもや不思議そうな顔をした。それを見て、私達はどう言ったものかと思案したが、藤崎が先に思い付いたようで口を開いた。
「簡単に言えば、同じ趣味や趣向を持つものが、互いに力を高め合うことを目的として集まったものです。」
まぁ…間違いじゃないが、大雑把過ぎる気もする…。だが、藤崎の説明を聞いた堀川は、何だか納得したように首を縦に振ってこう言った。
「なるほど。では、学問所のようなものですな。」
これはいよいよおかしい。学問所って…今時の老人ですら言わないだろう。藤崎も表情を強張らせて堀川を見ている。逆に、当の堀川はこちらを見ながら、嬉しそうに笑っているのだ…。
「堀川さん…失礼だとは思いますが、生まれは何年ですか?」
藤崎が恐る恐る問い掛けると、堀川は何とはなしに答えを返した。
「私は文久三年です。私が生まれる前後、世間は大層厳しい時期だった様で、父や母は随分と苦労したと申しておりました。」
堀川の答えを聞き、私達は唖然とするしかなかった。文久三年と言うことは…西暦じゃ1863年だ。もし本当だったら、とうに百歳を越えている。それがこんなに若いなんて…あり得ない話だ。
「堀川さん…あなた…」
「私も一通りの苦労は経験致しました。土地を守るために、そこへ住む人々の暮らしを守るために。だが、一番信頼していた身内が私を裏切るとは…思いもせなんだ…。」
私の言葉を遮って、堀川は自身の話を始めた。あたかも、最
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