File.1 「山桜想う頃に…」
V 同日 PM8:56
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態だろう。私と藤崎は無論、貸し切り状態の男湯だ。きっと他の宿泊客達も、女将が倒れたことに気付いてるんだろうが、心配しても治りはしない。あの女将だったら、そんな遠慮はしてほしくないと思う。
「京、相変わらず良い躰してんなぁ。音楽家って、そんなに体力使う仕事なのか?」
「何ジロジロ見てんだ…気色悪い!こんなんでも色々あるんだよ、色々な!」
「何だか傷だらけな気もするが…。」
「だから見るなっての!」
藤崎はそう言うと、一人さっさと中へ入って行ってしまった。ドイツ系ハーフであれだけ格好が良ければ、女なんぞ引く手数多だと思うんだがなぁ…。今もって結婚どころか恋人もいない様だし…。もしやゲイか?いや、以前は付き合っていた女がいたから、それはないだろうが…全く不思議な奴だ。
私はそんなどうでもいいことをぼんやりと考えつつ藤崎の後について中へと入ったのだった。
中はかなり広く、湯舟もそれに応じて大きいものだった。旅館の規模から考えても、少し大き過ぎるきもするが…。湯は濁り湯で、やや熱めだったが、これが温泉の醍醐味だと言えるだろう。まぁ、ぬるい湯を好む方も居るが、やはり温泉は熱いに限る。
私達はかけ湯をして体を慣らせ、そうして湯舟に浸かった。
「女将さんが倒れたんじゃ、ここを引き上げた方が良いんじゃないか?」
湯舟に浸かりながら藤崎に聞くと、藤崎はなんでもないと言う風に答えた。
「別にいいんじゃないか?そのために番頭が居るんだし。」
「しかしなぁ…あれだけ従業員が慌てる様じゃ…。」
藤崎の答えに、私は帰ってきた時の状況を思い出しつつ言葉を返した。あれじゃ…番頭なんて居る意味あるのか疑問だからな…。
私と藤崎が今後についてあれこれ話ている中、浴場へ一人の男が入ってきた。長い髪を後ろで一纏めに縛り、痩せてはいるものの全体に引き締まっている体つきをしていた。
「今晩は。ご一緒に湯を頂かせてもらって宜しいですかな?」
その男は私達にそう言ってきたので、私は「どうぞ。」と一言告げると、男はかけ湯をして後、湯舟へとその身を浸した。すぐ近くに入ってきたため、私は何とはなしに男を観察した。その体のあちらこちらに傷痕が見てとれたからだが、素人の私から見ても、それが刃物による傷痕だと分かった。初めは極道の人間だとも考えたが、どうもそういう雰囲気じゃない。どちらかと言えば、貴族や資産家の子息と言ったイメージに近い印象だった。
「私は堀川と申しますが、お二方は湯治に参られたのですか?」
見られていることに気付いてか、その男が私達へと話し掛けてきた。私達はギョッとしたが、別段変わった問い掛けと言うわけでもないと思い、私は堀川と名乗ったその男に答えた。
「いえ、ただ休暇がてら友人と会うために来たんですよ。そちらは?」
「私は近くに暮らしておりま
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