羽と華を詠み、星は独り輝く
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期待を込めて目を瞑り、彼の手が導くままに顔を寄せた。されどもやはりというべきか、彼が星に甘い口付けを与えるはずなどなく、耳元で囁かれたのは望んだ言の葉とは違ったモノ。
星には意味が分からなかった。示された地名はどちらの勢力にも属しておらず、かといって共に行こうという気軽な話でも無い。
続きが綴られる途中で、彼の声は怒声に遮られた。
「……っ……何やってんのよこのクソバカぁ―――――――――――――っ」
跳ねるようにその方を見やれば駆けてくる少女が一人。前は侍女服を着ていたはずの少女は、街娘の姿で眉を跳ね上げている。
――やれやれ……私の恋路はいつでも幼子に邪魔されるようだ。
せっかくの気分を台無しにされ、星が呆れのため息を吐く。それでも、彼から身体を離そうとはしなかったが。
もう少しだけこうしてくっついていたい。乙女心は確かにある。敵だとしても今くらいはこの温もりを感じていたい、と。
哀しいことに、星の些細な欲は達成されなかった。
「いっつもいっつもっ……好き勝手してんじゃないわよ――――――っ!」
見事というしかない流れるような動きで、詠は大地を抉るように滑り込んだ。
突き出された足は漸く詠を見つけた彼の腹に向かい、詠の視線が驚愕に支配されている彼の黒瞳に合わされる。
凶悪な一撃を予測すれば、武人である星が飛び抜かないはずもなく、押し倒されたままだった彼は逃げるのが遅れて……
「ぐっふぁ!」
それはもう見事に、詠のスライディングが秋斗の腹に突き刺さった。
土ぼこりを上げて転がる秋斗の身体。すっくと立ち上がった詠は息を弾ませてそれを睨みつける。
家屋に背中からぶつかってやっと止まった。幸いなことに空家だったのか住人が飛び出してくることは無かった。
「……久しぶり。確か――」
「あんたと公孫賛に真名は預けてないから呼ばないでよ? ボクはもう新しい名前を持ってる。“荀攸”って呼んで」
「ふむ……承知した。では改めて……久しぶりだな、そして“初めまして”、荀攸殿」
「ええ、“初めまして”趙子龍。あんたも街中で盛ってんじゃないわよ」
「おやおや、これは異なことを。私はただ旧知の友との再会を楽しんでいただけだが」
よく言う、と内心で呟き舌打ちを一つ。
あのまま止めなかったらどうなったかと想像して、詠の心にイライラが募って行く。
ジロリ、ときつく睨んで、また大きなため息を零した。
「……久しぶりに会ったのに悪いけどちょっと時間を頂戴」
「くくっ、どうぞどうぞ。こってりと絞ってやるがいい。無自覚鈍感女たらしには正座が似合う」
「ありがと」
「気にするな。私もやりかけの仕事がある。そちらの滞在中に酒でも飲みながらとっくりと話すさ。太守か
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