羽と華を詠み、星は独り輝く
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、狂気さえ宿った、そんな目。
何を切り捨てたらそうなるのか、何を失ったらそうなるのか、詠には分からない。
凡そ人のモノとは思えない漆黒の渦を見てしまえば、彼女の胸がより深く締め付けられる。
――なんでよ。どうしてあんたはそうやって……
唇が知らぬ間に震えていた。吐息が弱々しく吐き出されていた。それでも彼女は視線を逸らさなかった。
こんな目をした彼を、“黒麒麟”を連れて帰るわけにはいかない。否……“黒麒麟と道化師が混ざり合った秋斗”を連れて帰らないと、意味が無い。
「……また雛里を泣かすつもり?」
一言。
全ての音を世界から取り除いてしまったように寂しく張り詰めた幾瞬の後、彼の瞳が目に見えてブレる。
溢れ出したのはきっと悲哀。揺れているのは絶望と渇望のハザマで……そう、詠は思いたかった。
世界のために全てを賭けていた男と、たった一人の少女の為に全てを賭けている男。
詠は少女の為に戦う男を呼び戻そうと呼びかけた。
彼の救いは一つしかない。
いつでも彼を救うのは雛里。
壊れてしまったのも雛里への想いから。
人外の力に縋ってでも救おうとしたのだって雛里しかいない。
切り捨てようとして出来なかったのも、想いの全てを共有して来たのも、隣に立ち続けてきた雛里だけ。
道化師も同様に、彼女だけが救い。
戦う意味も、存在理由も、道化師の願いは彼女の笑顔のためだけに。
震える声で、泣き叫びそうになりながら、詠は彼を睨みつけた。
「また雛里を泣かすってんなら……ボクはあんたを絶対に許さないっ!」
グイ、と顔を近づけた拍子に彼の首元からナニカが零れ落ちる。
詠の顔が近づいたことで彼女の首元のナニカが揺れ動く。
小さな小さな金属音が響いた。二つの銀色が当たって鳴いた。
ふい、と視線を下げると……華の首飾りとツバサの首飾りが揺れていた。
同じように視線を下げた彼が、二つの銀色をじっと見つめ始めた。
「繋いでよ……あんただけの想いを……」
搾り出された声は弱弱しくも耳に響く。
瞳がまたブレる。彼の表情が歪んだ。心の痛みを堪えるかのように。
ゆっくりと大きな手が動いた。首飾りと共にぎゅうと胸を握りしめて緩い吐息を吐き出した。
目を瞑り、彼の呼吸が意図して止まる。引き結んだ唇から……漸く、呆れたようなため息が一つ漏れた。
「……“えーりん”」
「……えーりん言うな」
声音は優しく、暖かい。緩く笑った口元は冷たさの一つも見当たらない。
呼ばれたのは真名ではなかった。なのに安心と充足が広がった。
「なんで俺がお前さんに掴み掛かられてるのか聞いてもいいか? 苦しいんだが」
開いた瞼
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