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蠢くもの
4部分:第四章
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第四章

「それで身体中ミミズ腫れみたいにするのもいるんです」
「身体中をですか」
「それで額に瘤でしたね」
「ええ」
 今度はその話になった。
「下手したらそれが目か脳にいって」
「脳に」
「死ぬかも知れませんでしたよ、本当に運がよかった」
「そうだったんですか」
 これまで多くの戦いを経ていて精神的な強さでも知られていた。だがその彼が今の話を聞いてだ。明らかに恐怖を感じていた。
「脳にですか」
「それで心当たりはありますか?」
「テレビの収録で南アフリカに行きましたけれど」
 その時のことを話した。アフリカと聞いてだ。そこしか心当たりはなかった。
「それですかね。そこで刺身を食べましたけれど」
「ああ、間違いなくそれですね」
 医者もそれだというのだった。
「確実に」
「しかし。何で俺だけ」
 彼はベッドの中に半身を起こしていた。そのうえで首を捻って述べる。
「他のスタッフにはそんな話は全然ないんですけれど」
「坂本さん食べる量が多いですね」
 医者が指摘するのはこのことだった。
「そうですね」
「はい、そうですけれど」
「多分それですね」
 こう彼に話す。
「それで。たまたま虫にあたったんですよ」
「そうだったんですか」
「そうした意味では運が悪かったですね」
 医者はまた運の話をした。
「しかし助かりましたから」
「運がよかった」
「そうなります」
「そうですか。しかし」
「しかし?」
「怖いものですね」
 その怖いもの知らずの彼の言葉だ。
「いや、そんなことがあるなんて」
「はい、ですからですね」
「食べ物には気をつけろと」
「気をつけていてもこうしたことはありますから」
 医者の忠告はかなり怖いものだった。
「その証拠に他の人は寄生されていませんね」
「はい」
「しかし貴方はなりました」
 こう言うのであった。
「それが何よりの証拠です」
「食べる量が多かったからですか」
「しかしそれはプロレスラーなら仕方のないこと」
 医者はこのことも指摘した。
「それを考えればです」
「仕方ありませんか」
「運です」
 また運と言ったのであった。
「こうなってしまったのは運が悪かったのです」
「運がですか」
「しかし。運がよかった」
 運が悪かったと言ってだ。すぐにそれを否定もするのだった。
「こうして助かったのですから」
「そういうものですか。運が悪くて」
「運がよかった」
 こう話すのである。
「世の中誰でも運が悪くて運がよいものです」
「そういうものですか」
「おそらく。それが世の中なのでしょう」
 これが医者が坂本に話した言葉だった。何はともあれ彼は寄生虫に悩まされそれから助かった。このことは紛れもない事実であった
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