3部分:第三章
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第三章
「瘤って移るものか?」
「そんな話聞いたことないですけれど」
「なあ」
「瘤が移るなんてな」
「これで顔が浮き出るんだったら考えるがな」
坂本はここで冗談を言った。人面痩である。
「それもないしな」
「それじゃあ完全にホラーじゃないですか」
「楳図かずお先生ですよ」
伝説的な怪奇漫画家である。その漫画の怖さは読んだ子供のトラウマになる程である。そうした意味ではつのだじろうと双璧を為す。
その漫画家の話を冗談で出しながらジムの中で練習をする。坂本はその中でまた言う。
「やっぱりな」
「痛みはないですよね」
「別に」
「ああ、何もない」
それは彼も言うのだった。
「別にな。けれど何なんだろうな」
「おかしな瘤ですよね」
「全く」
「ああ、何だろうな」
まだ首を傾げるばかりであった。それから数日後だ。今度はだ。
背中にあった。皆それを見てまた言う。
「今度は背中って」
「よくもまあそんなに動き回るものですね」
「何ですかね、これって」
「変な瘤ですね」
「ああ、何なんだろうな」
坂本もいよいよ不思議に思うのだった。
「ここまであちこち移動するなんてな」
「瘤なんて動かないですから」
「そんなの全然」
「それがどうして」
「本当に切り取るか?」
彼も遂にこの考えに至ったのだった。
「やっぱりな」
「ええ、考えましょう」
「あまりおかしいと」
後輩達もスタッフ達もいよいよ奇怪に感じた。そしてまた数日後であった。
今度は額であった。そこに出来ていたのだ。
皆それを見てだ。いよいよ言う。
「やっぱりこれは」
「切り取りましょう」
「おかしいですよ」
「こんなに瘤が動き回るなんてないですよ」
「絶対に」
「そうだな」
坂本ももう冗談を言わなかった。言える筈もなかった。
そしてだ。真剣な顔で一同に対して言う。
「手術受けるか」
「ええ、じゃあすぐに」
「そうしましょう」
こうしてだった。彼は病院に行きだ。すぐに手術を受けた。手術自体は順調に終わった。しかしその後で聞いた話は驚くべきものだった。
「運がよかったですね」
「運がですか」
「はい、危ないところでしたよ」
手術が終わって入院している病室で医者の話を聞く。医者はここでこう言ったのである。
「本当に」
「あの瘤に何かあったんですか?」
「あれは虫だったんですよ」
医者はこう話してきた。
「瘤の中にね、虫が一杯いたんですよ。寄生虫が」
「寄生虫ですか」
「調べたらアフリカの方にいる寄生虫で。それで」
「それが俺の中にいてですか」
「そういうことです。身体のあちこちを動き回っていたんですよね」
「はい」
「そうした寄生虫もいますから」
医者の話
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