暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
生の罪科 1
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アルスエルナ。
 お母さんが行こうとしてた、新しい家がある国。
 でも。

「国境を越える許可証は、バーデルの兵士達に破り捨てられた。お母さんは国境を越えようとして殺されたんだ。もう一度関所に近付けば、今度こそ、本当に殺される」

 通すフリで人目につきにくい場所へ連れて行き、犯して殺して、棄てた。
 あの時は状況が呑み込めなかったけど。
 今になってみれば、とても分かりやすい図式だった。

「……大人がやりそうなことだ。大人はいつだって、やり方が汚い」

 僕も汚い。
 僕も、あの兵士達と同じだから。
 他人から奪うだけの、汚くて醜い罪人。

「君、まだ十歳くらい?」
「数えてないし、正確には分からない。お母さんが死んでから、数えるのをやめたんだ。お母さんが殺された時は四歳だった」

 男の子の顔が露骨に歪んだ。
 それから、何故かぎゅうっと強く抱きしめられる。

 ……汚いよ? 臭いし。
 綺麗な人間が、僕みたいなのに触っちゃダメだよ。

「ごめん……。何もできなくて、ごめんね……」

 綺麗な人間は、流す涙も綺麗なんだな。
 ……良いなあ……

「そいつから離れろ、テオ!」

 ぎくっと体が竦む。
 さっき食べ物を奪った畑の持ち主だ。
 月光に浮かぶ顔が、並々ならぬ怒りで染まってる。

「待って、おじさんっ……」
「黙れテオ! この、薄汚い盗人が!! 死ねえ!!」
「おじさん!!」

 テオと呼ばれた男の子が引き剥がされて。
 振りかぶられた農耕具の先が、僕の頭に襲いかかる。
 使い古されてて、とても鋭いとは表現できない状態だけど。
 それでも、金物には違いない。
 頭くらいは簡単に割れるんじゃないかな。
 それはもう……仕方ないの、かなあ……。

「やめ……っ」

 痛みに耐えようと目蓋を固く閉じた瞬間、ザクッ って嫌な音がした。
 でも、痛くない。
 なんで?

「……あ……」

 開いた視界を、驚いてるテオの顔が埋め尽くした。
 引き剥がされた筈のテオが、僕の体を、抱えて……

「……ごめん、……ね……」

 ずるっと滑り落ちたテオの背中に。
 男が振り下ろした農耕具の先端が刺さってる。

「……テオ……? テオぉお!?」

 男が動揺して……
 僕は……

「き……っさまぁあぁぁあ────っっ!!」

 呆然とする僕は、逆上した男に殴られた。蹴られた。
 体中をぼこぼこに殴られ、左腕をありえない方向に曲げられ。
 男の怒声を聞きつけた他の村人が集まってくるまで。
 それは、延々と続いた。



 ずるずると足を引きずって、荒れた大地を一人で歩く。
 ふと見上げると、真っ黒な空の色が紫を帯びた
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