生の罪科
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れじゃあ仕方ないかも知れないね。バーデル王国のお偉いさんは、アリア信仰を敵視してたから」
誰……お母さんと同じ、大きくて真っ黒な目と肩まで伸びる真っ黒な髪。でも、僕より背の高い男の子。
まさか、村の人間!?
逃げなきゃ捕まえられ……
「待って。これ、あげるよ」
逃げようとした僕の右手を取って、何かを掴ませた。じゃらりと音がする。
……お金?
手のひらの上で月光を受けて光る銅貨が三枚。
「……なんで?」
「君が生きていける足掛かりになれば良いと思って。施しだろうとなんだろうと、君は受け取るべきだ。これ以上畑を荒らされても此方が困るからね」
……銅貨三枚でどうしろと言うんだろう。芋を一つ買ったら終わりだ。
でも多分これが、この男の子の精一杯なんだ。自分の村を護る為にできる精一杯を選んだ結果。
この男の子は悪じゃない。僕とは違う善い人間。お母さんと同じ綺麗な人間。
「……ありがとう」
「うん。君、アリア信徒ならアリアシエルかアルスエルナ王国に行きなよ。バーデル王国よりはましだから」
隣国アルスエルナ……お母さんが行こうとしてた、新しい家がある国。
でも
「国境を越える許可証はバーデルの兵士に破り捨てられた。お母さんは国境を越えようとして殺されたんだ。もう一度近付けば、今度こそ本当に殺される」
通す振りで人目に付きにくい場所へ連れて行き、犯し殺して棄てた。
あの時は状況が呑み込めなかったけど、今になってみれば分かりやすい図式だった。
「……大人がやりそうな事だ。いつだって大人は汚い」
僕も汚い。僕も連中と同じだから。奪うだけの、汚くて醜い罪人。
「君、まだ十歳くらい?」
「数えてないから判らない。お母さんが死んでから、数えるのを止めたんだ。お母さんと居た時は四歳だった」
男の子の顔が露骨に歪んだ。それから、何故かぎゅうっと抱き締められる。
……汚いよ? 臭いし。
綺麗な人間が僕みたいなのに触っちゃ駄目だよ。
「ごめん。何もできなくて……ごめん」
綺麗な人間は、流す涙も綺麗なんだな。
……良いなぁ……。
「そいつから離れろ、テオ!」
ぎくっと体が竦む。さっきの畑の男だ。月光に浮かぶ顔が怒りに染まってる。
「待って、おじさん……」
「黙れテオ! この薄汚い盗人が!! 死ね!!」
「おじさん!!」
テオと呼ばれた男の子が引き剥がされて、農耕具の先が僕の頭に襲い掛かる。
使い古されてて、とても鋭いとは表現できない状態だけど、それでも金物には違いない。頭くらい軽く割れるんじゃないかな。それはもう……仕方ないの、かなぁ……。
「止め……っ」
痛みに耐えようと目を閉じた瞬間、ザクッ って嫌な音がした。
でも、痛くない。なんで?
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