暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
生の罪科
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
れじゃあ仕方ないかも知れないね。バーデル王国のお偉いさんは、アリア信仰を敵視してたから」
 誰……お母さんと同じ、大きくて真っ黒な目と肩まで伸びる真っ黒な髪。でも、僕より背の高い男の子。
 まさか、村の人間!?
 逃げなきゃ捕まえられ……
 「待って。これ、あげるよ」
 逃げようとした僕の右手を取って、何かを掴ませた。じゃらりと音がする。
 ……お金?
 手のひらの上で月光を受けて光る銅貨が三枚。
 「……なんで?」
 「君が生きていける足掛かりになれば良いと思って。施しだろうとなんだろうと、君は受け取るべきだ。これ以上畑を荒らされても此方が困るからね」
 ……銅貨三枚でどうしろと言うんだろう。芋を一つ買ったら終わりだ。
 でも多分これが、この男の子の精一杯なんだ。自分の村を護る為にできる精一杯を選んだ結果。
 この男の子は悪じゃない。僕とは違う善い人間。お母さんと同じ綺麗な人間。
 「……ありがとう」
 「うん。君、アリア信徒ならアリアシエルかアルスエルナ王国に行きなよ。バーデル王国よりはましだから」
 隣国アルスエルナ……お母さんが行こうとしてた、新しい家がある国。
 でも
 「国境を越える許可証はバーデルの兵士に破り捨てられた。お母さんは国境を越えようとして殺されたんだ。もう一度近付けば、今度こそ本当に殺される」
 通す振りで人目に付きにくい場所へ連れて行き、犯し殺して棄てた。
 あの時は状況が呑み込めなかったけど、今になってみれば分かりやすい図式だった。
 「……大人がやりそうな事だ。いつだって大人は汚い」
 僕も汚い。僕も連中と同じだから。奪うだけの、汚くて醜い罪人。
 「君、まだ十歳くらい?」
 「数えてないから判らない。お母さんが死んでから、数えるのを止めたんだ。お母さんと居た時は四歳だった」
 男の子の顔が露骨に歪んだ。それから、何故かぎゅうっと抱き締められる。
 ……汚いよ? 臭いし。
 綺麗な人間が僕みたいなのに触っちゃ駄目だよ。
 「ごめん。何もできなくて……ごめん」
 綺麗な人間は、流す涙も綺麗なんだな。
 ……良いなぁ……。
 「そいつから離れろ、テオ!」
 ぎくっと体が竦む。さっきの畑の男だ。月光に浮かぶ顔が怒りに染まってる。
 「待って、おじさん……」
 「黙れテオ! この薄汚い盗人が!! 死ね!!」
 「おじさん!!」
 テオと呼ばれた男の子が引き剥がされて、農耕具の先が僕の頭に襲い掛かる。
 使い古されてて、とても鋭いとは表現できない状態だけど、それでも金物には違いない。頭くらい軽く割れるんじゃないかな。それはもう……仕方ないの、かなぁ……。
 「止め……っ」
 痛みに耐えようと目を閉じた瞬間、ザクッ って嫌な音がした。
 でも、痛くない。なんで?
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ