生の罪科 1
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なのに。
おきるの、ずっと、まってたのに。
おかあさんが、ぜんぜんうごいてくれないから。
ぼくはおかあさんをおいて、にげちゃった。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
でも、おなかがすいたんだ。
すごく、おなかがすいた。
「……このくさ、たべれるのかな……」
そこらじゅうにはえてる、ほそ長いくさをむしって、かんだ。
くさい。
でも、なにかをかんだのは、ひさしぶり。
おなかが、ぐるぐるってなる。
もういっかい、かんだ。
やっぱり、くさい。
けど、もっとかみたい。たべたい。
おなかすいた。たべたい。
なんでもいい。たべたい。
あれから、どれだけの月日が流れたんだろう。
「こら、待て泥棒ーっ!」
畑を見つけては、物を盗んで。
露店を見つけては、物を盗んで。
鳥を殺して、魚を殺して、僕は生きてる。
ただ飢えをしのぐ為に食べて、生きてる。
「……はは……っ」
村の外へ逃げ切って、奪った物を全部食べて。
疲れたから、適当な木に背中を預けて座る。
殴られるのも、怒鳴られるのも嫌だし。
深夜なら気付かれにくいかと思ったんだけどな。
やっぱ、そう甘くはないか。
「そりゃそうだ。皆、必死なんだから」
汗水垂らして畑を耕してるところを見た。
必死な表情で川の水を運ぶ女の人が居た。
作物を実らせるには、時間と手間と、そして途方もない労力が必要だ。
そんなことは知ってるし、解ってる。
でも、僕には耕せる土地も道具も種も無いんだ。
耕して育ててる間の飢えをしのぐ方法が無いんだ。
だから、奪う。
自分が食べる為だけに、誰かの糧を奪う。
「……身勝手だな」
解ってる。
お母さんを殺した連中と同じことをしてるんだ、僕は。
食べたいから奪うのと、奪いたいから奪うのと。
そこには何の違いもない。
結果は略奪。
ただ、それだけ。
「汚い……汚い汚い汚い汚い汚い汚い……」
笑い声がする。
たくさんの笑い声が、耳の奥で反響する。
お母さんを殺した兵士達の笑い声が、自分の笑い声に変わっていく。
…………どうして生きてるんだ?
僕は、どうして生きてるんだ。
奪って、殺して、食べて。
それにどんな意味があるっていうんだ?
「汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い」
ガリガリと自分の肩を引っ掻いて。
引っ掻いて、引っ掻いて、引っ掻いて。
皮膚が削げて、血がにじむ。
皮膚と爪の間が、赤黒いもので詰まっていく。
痛い。痛い。痛い。
……それでも、お腹は空く。喉が渇く。
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