暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
生の罪科 1
[2/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

 なのに。
 おきるの、ずっと、まってたのに。
 おかあさんが、ぜんぜんうごいてくれないから。
 ぼくはおかあさんをおいて、にげちゃった。

 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 でも、おなかがすいたんだ。
 すごく、おなかがすいた。

「……このくさ、たべれるのかな……」

 そこらじゅうにはえてる、ほそ長いくさをむしって、かんだ。
 くさい。
 でも、なにかをかんだのは、ひさしぶり。
 おなかが、ぐるぐるってなる。
 もういっかい、かんだ。
 やっぱり、くさい。

 けど、もっとかみたい。たべたい。
 おなかすいた。たべたい。
 なんでもいい。たべたい。



 あれから、どれだけの月日が流れたんだろう。

「こら、待て泥棒ーっ!」

 畑を見つけては、物を盗んで。
 露店を見つけては、物を盗んで。
 鳥を殺して、魚を殺して、僕は生きてる。
 ただ飢えをしのぐ為に食べて、生きてる。

「……はは……っ」

 村の外へ逃げ切って、奪った物を全部食べて。
 疲れたから、適当な木に背中を預けて座る。

 殴られるのも、怒鳴られるのも嫌だし。
 深夜なら気付かれにくいかと思ったんだけどな。
 やっぱ、そう甘くはないか。

「そりゃそうだ。皆、必死なんだから」

 汗水垂らして畑を耕してるところを見た。
 必死な表情で川の水を運ぶ女の人が居た。
 作物を実らせるには、時間と手間と、そして途方もない労力が必要だ。
 そんなことは知ってるし、解ってる。

 でも、僕には耕せる土地も道具も種も無いんだ。
 耕して育ててる間の飢えをしのぐ方法が無いんだ。

 だから、奪う。
 自分が食べる為だけに、誰かの糧を奪う。

「……身勝手だな」

 解ってる。
 お母さんを殺した連中と同じことをしてるんだ、僕は。

 食べたいから奪うのと、奪いたいから奪うのと。
 そこには何の違いもない。
 結果は略奪。
 ただ、それだけ。

「汚い……汚い汚い汚い汚い汚い汚い……」

 笑い声がする。
 たくさんの笑い声が、耳の奥で反響する。
 お母さんを殺した兵士達の笑い声が、自分の笑い声に変わっていく。

 …………どうして生きてるんだ?
 僕は、どうして生きてるんだ。
 奪って、殺して、食べて。
 それにどんな意味があるっていうんだ?

「汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い」

 ガリガリと自分の肩を引っ掻いて。
 引っ掻いて、引っ掻いて、引っ掻いて。
 皮膚が削げて、血がにじむ。
 皮膚と爪の間が、赤黒いもので詰まっていく。

 痛い。痛い。痛い。

 ……それでも、お腹は空く。喉が渇く。
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ