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ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜
追憶の惨劇と契り篇
53.激戦外
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粒子に霧散した身体が一つの個体へとゆっくりと集合していき、美鈴の身体を形成していく。
明かりの消えたマンションの屋上。そこから見える景色は美鈴が知っている街並みとは違った。
崩壊する建物。燃え盛る大地。そこにあったのは絶望だけだった。
「本当にあの子ったら人の言うことを聞かないんだから」
美鈴の視線の先には、この戦いの本当の意味も知らない少年少女がいた。
「誰かさんに……そっくりね……」
今にも消えそうな弱々しい声が美鈴の腕の中から聞こえた。
「血は争えないってことなのかしらね」
呆れた口調で美鈴はため息をこぼした。
それでも、と美鈴は言葉を続ける。
「彩斗くんにはこれ以上私たちの問題に関わらせるわけにはいけないのよ」
瞳が緋色をまとう。それとともに少年少女がいた空間が大量の泡へと包まれていく。
美鈴が従える“
神意の暁
(
オリスブラッド
)
”の能力の幻惑。
「しばらくその中でじっとしててね」
あの世界にいる限り、彩斗はこちらの世界に手出しはできない。その逆も然りだ。所有者である美鈴が解除するもしくは眷獣が消滅しない限りは永遠に続く夢の牢獄。
「それじゃあ、そろそろ向かうわね、京子」
「……ええ、あとは任せた、わよ……美鈴」
ぐったりとしている京子は胸ポケットから銀色の小さな刃を取り出した。
しっかりとそれを握りしめる。京子を地面へと下ろすと美鈴は再び霧へと変わり、戦場へと向かうのだった。
「はぁ……はぁ……」
途切れ途切れの荒い呼吸。
いくら吸血鬼といえども一キロを全力疾走で走り続ければ息など持つわけもない。肉体は普通の人間とほとんど大差ないのだから。
それでも柚木は足を止められない。この立ち止まっている間にも彩斗が無茶をしているかもしれない。
「彩斗……彩斗……」
何度も彼の名を呼ぶ。
あの場所にいないことを信じて一歩、また一歩と進んでいく。
先程までとは比べものにならない大気の振動が柚木へと容赦なく襲いかかってくる。
もう近くだ。
震える足に鞭いれる。
戦わなくてもいい。彩斗がいないことを確認して他のみんなが戦っているなら加勢するか一緒に逃げればいい。
すると柚木のちょうど真横の建物が轟音を立てて崩れ去る。
激しい砂煙と瓦礫を巻き上げて崩壊していく中に見えたのは、二つの大牙を持った猪だった。
それは見間違えることのない“
神意の暁
(
オリスブラッド
)
”の八番目、アレイストが従える眷獣だ。
「うそ…………」
驚愕のあまり声の出せない柚木がようやく口にできたのはそんな二文字だった。
大牙の猪の巨体が建物から地面に落下するとともに元の魔力へと還っていく。
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