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廃水
12部分:第十二章
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き出したのだった。
「何人も犠牲にして。これでな」
「終わりですね、本当に」
 学者もまた終わりだと言う。
「後始末は残っていますが」
「そうだな。しかしだ」
 ここで工場長は首を傾げさせてきた。
「何故だ?」
「何故といいますと?」
「どうしてあんなものが出て来たのだ?」
 彼が言うのはこのことだった。
「あんなものが。どうしてだ?」
「そうですね」
 彼の言葉を受けて学者は考える顔になった。そうしてそのうえで答えるのだった。
「あくまで仮定ですが」
「うん、その仮定は?」
「今我が国は必死に工業化を推し進めています」
 学者はまずこのことを言うのだった。
「それで公害も出ていますが」
「ではこれも公害なのか?」
「おそらくは」
 こう話すのだった。このことは今次第に言われだしていたのだ。工業化を推進すればどうしても起こってしまうことなのである。
「その結果の一つでしょう」
「しかし。水が意識を持つのか」
 工場長はそれでもこのことは考えられなかった。あまりにも馬鹿げた話にしか思えなかった。これは彼の常識の中での考えである。
「そんなことが有り得るのか」
「有り得るのでしょう」
 学者は首を捻りつつまた工場長に述べた。
「私も今までこんなことはないと思っていましたが」
「考えが変わったとでもいうのかね?」
「はい、その通りです」
 彼の返答だった。
「まさか。こんなことが」
「そうか。やはりないか」
「はい、有り得ないことです」
 彼はまた述べたのだった。
「本来は。ですが実際に起こりました」
「そうだな。実際に起こった」
 このことを話す。どうしても否定できない現実だった。
「それではな。否定できないな」
「その通りです。そして何人も死んだ」
 それが余計に現実であることを教えていた。人が死ぬこと程現実を表すことはない。それで嘘だとは学者にも工場長にも言えなかったし思えなかったのだ。
「ですから」
「世の中は常識では語りきれないこともあるか」
 工場長はその蒸発してしまった廃水がこれまでいた場所を見て呟いた。
「それが今だな」
「そういうことです」
 これが現実だった。実際に廃水が動きそうして何人も喰われてしまった。水が意識を持つこともある、何かを汚せばそれは必ず汚した者に帰って来る、そういうことだろうか。


廃水   完


                  2009・6・8

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