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第一章
腐水
その工場はとにかく忙しかった。工業化を推し進め発展している国はどの場合でも多忙なものであるがその工場はその中でもとりわけ多忙であった。
まさに一日とて休まる暇はなくその一日も長い。夜を知らず朝も知らない。そうした極めて多忙な中で人々も働いているのだった。
「忙しい忙しい」
「言っても仕方ないけれどな」
愚痴は出るがそれでも身体は自然に動く。中で働く労働者達も殆ど機械になっている。そうして汗と油にまみれて働き続けるのだった。
工場の中では人々が働きその中で動き続けていた。とにかく忙しく出すものもなおざりになってしまっていた。
「とりあえず流せ」
工場長はこう言うだけだった。
「河に流してしまえばそれでいいからな」
「わかりました」
排水やそういったものは次々と河に流される。真っ赤な排水が流されそれが河を不気味に染める。しかしそれを真剣に見る者は誰もおらず働き続けている。とにかく多忙だったのだ。
しかしその中においてだった。工場の中である噂が聞こえていた。そしてそれは実に奇妙な噂であった。
「水が動いた!?」
「ああ、そうらしい」
「水が動いたんだよ」
こういう話であった。
「工場から出す排水が動いたらしい」
「水は流れるものだろう?」
その話にすぐに反論が為された。
「それだと動いて当然じゃないか」
「なあ」
「いや、違うんだよこれが」
しかしそうではないというのだ。
「水がな。何か変に動き回るんだよ」
「変に?」
「そうらしい。それで魚を取り込んだりしてな」
「まさか。そんなことがある訳ないだろ」
「なあ」
だがこの言葉もすぐに否定される。これまた、というように。
「けれど本当に動いてな」
「魚だけじゃなくて川辺にいた生き物も襲って」
「おい、それって嘘だろ」
すぐにこの話には疑問符が付けられた。
「そんなのってよ。ないだろ」
「ないか、やっぱり」
「そうだよ。それってな」
「それじゃあ化け物だろ?」
皆その噂を信じようとはしなかった。
「そんな話よ。有り得ないだろ」
「水が魚とか食うかよ」
「なあ」
この話は最初は一笑に伏された。しかしそれでも噂は消えずそれどころか徐々に大きなものになっていた。噂は川の中だけでなく工場の中にも及んできていた。
「えっ、工場で何か動いていたのかよ」
「ああ、そうみたいだぜ」
「赤いドロドロとしたものがな」
この話が為されるのだった。工場にいる工員達の中で。
「蠢いているってよ。何かな」
「そういえば排水が動いてるって噂あったよな」
「それが外に出て来たのかよ」
こう考えが及ぶのは当然の流れだった。
「しかもこの中にかよ」
「
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