1部分:第一章
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その彼に気付き馬を下りた。そして声をかけた。
「浅野殿ではござらんか」
「おお、丘道殿」
口髭を生やしたやけに怖い顔の男がそれを受けて彼に顔を向けてきた。見れば浅野正久であった。鎌倉で執権家に仕える武士で実朝の同僚である。所謂身内人である。
「薬を売っていると聞いたが」
「うむ、それで見に参ったのじゃ」
正久は彼の言葉に答える。
「宋の薬をな」
「ふむ」
「どうやら日本のものよりも凄いらしい」
「そうであろう。やはりそちらではな」
宋といえば文化も技術も当時の世界において他を寄せ付けないものがあった。その為そこのものと言えば何でも飛ぶように売れたのである。今風に言うならば漢方薬であるがそれを売っているのである。
「丘道殿も見てみればどうかな」
「そうじゃな」
実朝はその話を聞いて頷いた。
「それではな」
それに応えて店の中を覗いてみる。するとそこには一人の痩せた男がいた。
「なっ」
実朝はその男の顔を見て絶句した。何とそこにいるのは昨夜夢の中で会った男であったのだ。
「いらっしゃいませ」
「どういうことじゃ」
実朝は思わず呟いた。
「これは一体」
「どうされました?」
「どうしたもこうしたもない」
彼は言う。
「そもそも」
「そもそも?」
「いや、いい」
ここで彼は思い直した。あれは夢の話である。夢の世界とこちらの世界は違う。それで何かを言ってもやはりそれは違うのだということを思い出したのである。
「では何か貰おうか」
「これなぞ如何でしょうか」
男は一つの小さな壷を出してきた。その外観は黒いごく普通の小さな壷だ。しかし実朝はそこに不吉なものを感じていたのである。しかしそれは口には出さない。
「それか」
「はい、どうでしょうか」
「ではそれを貰おう」
鎌倉武士として迷いを見せるわけにはいかなかった。武士というのは迷ってはならない、すぐに決断を下さなければならないと。彼はそう考えているからだ。
「はい。きっとお役に立てるかと」
「それで何の薬なのじゃ?」
彼はそれを問うた。
「よかったら教えてくれないか」
「気付け薬です」
「気付け薬か」
「御身体が悪くなった時にこれを飲まれれば。すぐに回復致します」
「左様か」
「はい。それでは」
「うむ」
その薬を買って家に戻る。ここまでは何事もなかった。
しかし家に帰って暫くすると。急に身体がだるくなってきた。
「!?どういうことだ」
実朝はそれに違和感を覚えた。何が何なのかわからない。
とりあえず彼は今買ってきた薬に目をやる。男の話を思い出したのだ。
「身体が悪くなった時に飲めばよかったな」
それを思い出しすぐに口に入れる。その後で布団の中に入って休んだ。暫くすると眠りに入りそこで
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