第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十一 〜諸葛姉妹〜
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力を込め、彩が夏侯惇を押し返す。
「馬鹿力は、貴様も同じではないか!」
「これでも武人、鍛えているからな。だが、貴様のようにただの脳筋ではないぞ?」
「誰が単純で馬鹿力しかない脳筋か!」
「……いや、そこまで言ってないが」
「煩い!」
大上段に振りかぶった夏侯惇が、彩に襲いかかる。
本人が軽い、と言い切るだけあり、夏侯惇にしてみれば、頑丈な木刀も紙の如しなのであろう。
だが、彩とて一流の武人。
巧みに全てを受け止め、受け流していく。
「どうしたどうした! 受けてばかりでは私には勝てんぞ!」
「そうかな?」
彩は、涼しい顔で答える。
……いや、決して遊んでいる訳ではないのであろうが。
あまりに落ち着き払っているので、余裕綽々と見えてしまう。
「貴様! 真剣にやらんかぁ!」
夏侯惇にもそう見えたらしく、ますます激高する。
「そうか。なら、こちらから行くぞ!」
そう言い放ち、彩は木刀を構えた。
「だぁっ!」
「はぁっ!」
そして、何合か打ち合ったであろうか。
「はっ!」
彩の一撃を受け止めた夏侯惇。
……次の瞬間、表情が凍り付いた。
「な、何っ?」
手にした木刀が、根元からポキリと折れてしまったのだ、無理もなかろう。
「そこまで! 勝者は彩さんです!」
愛里の声が響いた。
「ば、馬鹿な! これは何かの間違いだ!」
「おや? 夏侯惇ともあろう人物が、最初に決めた決まり事も守らぬつもりか?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
歯がみをして悔しがる夏侯惇。
「殿。終わりましたぞ」
「うむ。夏侯惇、もう気は済んだであろう?」
「……敗北を認めないつもりですか? 曹操様が知ったら、お怒りになりますよ?」
愛里の言葉に、夏侯惇はがっくりと肩を落とす。
「わ、わかった……。私の負けだ」
その手から、折れた木刀が力なく、落ちた。
「彩、良くやったな」
「いえ。さほどの事はありませぬ」
その夜。
臥所で、彩と共に過ごした。
「いや、あの夏侯惇相手に一歩も退かず、更に勝利を得るとはな」
「……ありがとうございます」
嬉しげな彩。
「……だが」
「……は?」
その髪を梳りながら、
「木刀に仕込みを入れるとは、な」
「……気付いておられましたか」
「当然だ。あの木刀は、そんなに簡単には折れぬ。第一、折れた箇所があまりにも真っ直ぐだったぞ」
「殿には敵いませぬな。申し訳ございません」
彩は苦笑する。
「いや、良い。だが、何時の間にあのような事を?」
「は。実は、朱里の知恵を借りたのです。挑発して、気を私に逸らせたのは確かに私ですが」
「ふっ、そういう事か」
「……殿。失望されましたか?」
「案ずるでない。勝利の為には、時に手段を選んではならぬ
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