狂い咲く黒の華
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隊長の二人以外残してくから」
「……ん、分かった」
「じゃあ行って来るわ」
「ごめん、詠」
「もういいわよ、徐晃隊を名乗るんなら次からはちゃんと止めなさい」
「うん」
もはや口を挟まず。背を向けて歩き出す詠を見つめるだけ。
猪々子はことの重大さを理解した。
例え、万に一つの可能性であれど、絶対にあってはならない結末がある。
――アニキが敵になるなんて……絶対やだし。
せっかく仲良くなったのにもう終わり、そんなのは彼女とて願い下げ。何より、もう絶対に戦いたくない相手の一人であった。
黒麒麟の身体が居なくともその男一人が居るだけで兵士達は狂う。猪々子は袁家ゆえに知っている。河北の結末でイカレたのは彼女の部隊とて同じで、幽州の白馬義従は憎しみを狂信に変えて今尚遠き大地で戦っているのだから。
ぶるりと身体を震わせた猪々子とは別に、詠は切り替えた頭で冷たい思考を積み上げる。
――自殺も裏切りも怖いけどね……一番怖いのは“記憶が戻ったのを悟らせない程にイカレてた時”なのよ、猪々子。
そんなことは無理だ……と否定しながらも考えてしまった。
雛里のことを思えば記憶が戻った時点で彼女に嘘は付けないはず。詠はそう思う。
だがもし……雛里さえ利用して思惑を成就させようと願いはじめたら……。
――“秋斗の知識と思考”は……正しく使われないと国を一つ滅ぼす。内側から壊すほうが容易いって、あいつは誰よりもよく知ってた。だから……ボクが見極めないと。
信じるな、と言ったのは彼。止めてくれ、と教えていたのも彼。
徐晃隊と同じく、彼が狂った時に止めるのは彼女達三人の役目。
いつも通りだ、と彼のように呟いてみる。少しだけ心が落ち着いた。
どうしようもないバカはいつも自分勝手で、いつもいつも誰かを置き去りにしていく。
ただ……彼女はそんな彼のことを間違わない。
――分かってるわよ。あんたは、ボクが居ない状況で趙雲達に会いたかった。少しでも過去に近付けて記憶を戻したかった……そうでしょ、秋斗。
確信を以ってそう言えた。彼が自分勝手に行動する時はいつだって誰かの為でしかないのだから。
――いつだって雛里の為だもんね。バレバレなのよあんたの考えくらい。でも……ちょっとだけ自惚れていいなら……
ジワリと湧いた胸の暖かさは、優しい彼が誰かを信じることしかしない男であるが故に。
僅かに頬を淡く染めて、詠はぽつりと呟いた。
「ボクが居たら狂わないって信じてくれた、ボクなら“狂った黒麒麟を見抜いて止められる”って信じてくれた。そう思っても……いい?」
†
――愚策だった。劉備軍の有名な三将が南蛮遠征に出ていると
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