狂い咲く黒の華
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るから、らしい。
敵情視察を自身で行おうとする当たりが彼らしいが、詠にとっては堪ったモノではなかった。
「ごめん……でもっ」
「なによ!?」
「アニキなら! 一人でも大丈夫だ……って……思う、じゃん……」
次第に消えそうになっていく声は、詠の表情を見てしまったから。瞳の奥を覗き込んでしまったから。
今にも泣きそうで、今にも駆け出してしまいそうで、それでも我慢している詠を見ると、言葉は意味を失くした。
「あいつがバカしたっていつもなら信じるわよ! 情報収集の大切さを知ってるから生の情報を得ることだってしたいことの一つでしょうね! でも此処でだけはっ……益州でだけは一人にしちゃダメなの! 劉備軍の居る益州でだけはっ!」
必死な叫びは思い遣りと……恐怖。
彼女の内心を知るモノは多く居た。いや、彼女の発言で気付いた、と言おうか。
おちゃらけた空気を霧散させ、真剣な表情になったのはやはり……彼らだった。
(……やべぇな)
(ああ、やべぇよ)
(劉備軍にはあの人が居る)
(一対一で出会っちまったら……そんでもし……戻っちまったら……)
皆の表情に絶望の色が浮かんだ。
最悪の事態を想定しろ、と言いつけられてきた徐晃隊が思い描いたのは、“秋斗が黒麒麟に戻ること”。
願ってやまなかったはずの事柄も、状況が整わなければ絶望にしかならない。
本当に長い時間を彼と過ごしてきた彼らには、自分達が立てた予想の状況で戻ることだけはしてほしくない。彼を良く知るからこそ。
「な、なんで……?」
猪々子には分からず聞き返した。詠は歯を噛みしめて視線を逸らす。
「……一人で会わせたらダメな人間がいる。名前は趙雲、趙子龍。知ってるでしょう?」
「……黒麒麟の……友達」
「そう。乱世を優先して切り捨てた幽州の将。夜天の願いを交し合った絶対の友。黒麒麟が一番助けたかった人の一人よ」
「……」
自分達が壊した、という言葉を猪々子は呑み込んだ。
後悔しても遅い。もう既に終わったことだ。たらればの話をしても意味が無い。事実は常に目の前にある一つだけ。
「自分達のせいで、とか言ったら張り倒すわよ」
「言わねぇし! あたい達はあたい達の為に戦った! あたいのとこのバカ共だって死んでんだからな!」
弾けるように言い返した猪々子に詠はジト目を向ける。
――それを分かってるならその先くらい読み取りなさいよ。
内心で愚痴る。
“もしも”という兵士の想いへの侮辱をしない猪々子は正しい。彼らが必死に戦った想いを、“自分達が戦わなかったなら”という言い訳で塗りつぶすことだけはしてはならない。
自分が命令してコロシアイに向かわせた兵士を蔑ろにする行いなのだ。将と
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