2部分:第二章
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第二章
「ですから」
「何かあるようですが」
「それでも一体何が」
「何があるのですか?」
「私が思っている通りならおわかりになられます」
道士の言葉はさらに深刻で険しいものになっていっていた。
「できればそうしたことにはなって欲しくはないですが」
「左様ですか。それでは」
「とにかく袁さんの家に参りましょう」
「今から」
こうして一行は新郎である袁昇叙の屋敷に向かった。門も壁も屋敷も素晴しいもので袁家が栄えているのがわかる。出迎えてきたその袁昇叙も顔立ちは若々しく立派で身なりもよい。長身に黒々とした辮髪が映えている。その彼が笑顔で待っていたのだ。
「よく来られました」
袁昇叙は後ろに自分の家の使用人達を控えさせてそのうえで一行を迎えた。
「どうもです」
「はい、お待たせしました」
花嫁の父が笑顔で彼に応える。
「それでは今から」
「はい、士気を挙げましょう」
「これ」
父はすぐに周りの者に顔を向けて声をかけた。
「すぐに娘を」
「はい、それでは」
「ではお嬢様、篭を開けますので」
「おいで下さい」
こうして篭が開けられ花嫁が出て来た。しかしであった。
花嫁がまず出て来た。しかしである。一人出て来たところでもう一人出て来たのである。それに最初に驚いたのは花嫁自身であった。
「えっ、私がもう一人」
「私がもう一人」
二人で言うのだった。何とそこには二人の花嫁が出て来たのだ。
顔も髪型も服も飾りもだ。何もかもが同じである。見分けることなぞ不可能であった。
「これは一体」
「どういうこと!?」
二人で顔を見合わせて驚き合う。道士はそれを見て益々その顔を剣呑なものにさせてだ。そのうえで言うのであった。
「まずい、このままでは」
「このままでは」
「どうなるというのですか?」
「恐ろしいことになります」
こう言うのである。
「ですからです。花婿殿はです」
「はい?」
袁昇叙は道士の言葉に応えた。そのうえで彼の傍に来た。
「私が何か」
「これを」
こう言って先程の札をそっと手渡してきたのだ。
「今日一日お持ち下さい」
「今日ですか」
「そしてです」
今度は赤い札を出してきた。そちらは二枚あった。
「奥方様達それぞれの背中に気付かれない様に貼っておいて下さい」
「この赤い札を」
「そうです、御願いします」
「また何故ですか?」
袁は怪訝な顔で彼に問うた。
「この様な札なぞ」
「今は言えません」
秘密だというのである。
「それでもです。それで御願いします」
「わかりました」
話はわからないが道士のその言葉に頷く袁だった。そうして自分自身はその白い札を懐の中に忍ばせそのうえで妻の背中にそれぞれその赤い札を貼っておいた。
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