case.6 「闇からの呼び声」
Y 同日.PM.9:28
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。そしてコラール編曲が21(3×7)曲。計27(3×9)曲となり、各コラール編曲にも様々な数象徴が隠されているのだ。
因みに、フーガには音楽の守護聖女の名を取って<聖アン(アンナ)のフーガ>と呼ばれることもある。それだけ壮大な音楽なのだ。
この前奏曲とフーガは、約15分程で終わる。ことにフーガの光溢れんばかりのフィナーレは、今この状況とは全く正反対だが、その最後の和音の響きが消えるまで、人々は黙って耳を傾けていたのだった。
恐怖に怯えてここへ逃げ込んで来た人々は、その恐怖の束縛より音楽で解放されたのだ。いや…信仰といっても良いだろう。
「こちらは大丈夫な様ですね。」
演奏を終えた俺に、ルートヴィヒ神父がそう言って話し掛けてきた。
「表は…どうなりましたか?」
「彼方は警察の方々のお陰で落ち着きました。」
「そうですか。しかし、一体何があったんですか?ここまで人々に恐怖を抱かせるなんて…。」
俺はルートヴィヒ神父に問った。すると、彼はおぞましいものを見た様な表情をし、こう答えたのだ。
「消えていた人々が…肉塊となって降ってきたんですよ…。あちらこちらへと…。」
彼の声は小さく、そして少し震えていた。恐れで…と言うよりは、それは怒りと言ったほうがいいかも知れない。それは紛れもなく、信仰からくるサタンへの怒りだった。
「どうして…信仰ある者が、あの様な最期を遂げねばならなかったのでしょう…。」
ルートヴィヒ神父は続けて、神へと呟くようにそう言った。だが、俺にはそれに答えるだけの叡智はなかった。たとえ答えを見つけたにしろ、ルートヴィヒ神父がそれを求めて聞いた訳じゃないかも知れない。しかし、彼のその心に重くのし掛かった苦痛は、俺の比ではない筈だ…。
俺は言葉では何も言うことが出来なかった。だから…再び鍵盤へと指を走らせ、音楽を奏でた。俺にはこれしかないから…。
ここで演奏したのも、やはりバッハのコラール編曲だ。“人は皆死すべき定め"BWV.643。
これは、バッハが若い時分に纏めた"オルゲルビュヒライン(オルガン小曲集)"の中の一曲で、ソプラノにコラール旋律がそのまま置かれ、下三声部はコラールに寄り添って歩む様な形で書かれている。死と永遠をテーマとするコラールだが、調性はト長調と明るく、死は永遠ではないと説くキリスト教らしい音楽だ。
キリスト教では、死は来るべき復活の為の代償なのだ。故に、死とは悲しいものではない。このコラール編曲一つ取っても、それが良く理解出来る。
「そうです。我らは迫害を受けても、決して神から離れてはならない。いずれは皆、神の下で安らげるのですから…。エレミアが妻の死を嘆いた時、神はエレミアに溜め息を吐くことだけを許された。それは…死は永遠ではないことを示すためのものだったのだから…。」
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