暁 〜小説投稿サイト〜
藤崎京之介怪異譚
case.6 「闇からの呼び声」
Y 同日.PM.9:28
[3/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
静かな夜の町を横切った。
 月は何事もないように町並みを照らし、俺達の足下を明るく照らす。だが同日に、自分の前に落ちた影をより一層濃いものにし、俺達の足取りを重いものにしていたのだった。
 俺達は町中から少し離れた所へ行き、アウグスト伯父の用意してくれたバスに乗って聖マタイ教会へと向かった。町中にこのバスが入ると響くため、伯父はわざと町外れへと用意したのだ。人々に知られないように…。これ以上騒ぎを拡げる必要はないし、俺達が慌ただしく動いて余計な不安を煽るようにはしたくない。これは必要な配慮なのだ。
 俺達が聖マタイ教会に着くと、教会には既に明かりが灯されていた。アウグスト伯父が連絡を入れていたのだろう。
「ルートヴィヒ神父。こんなことになってしまって…」
「話は全て聞いております。さぁ、早く中へ入って下さい。」
 ルートヴィヒ神父はそう言って、俺達を中の礼拝堂へと通してくれた。
 礼拝堂へ入ると、そこには椅子も譜面台も用意されていた。チェンバロも用意されていた上、オルガンも直ぐにでも演奏出来るように整えられていたのだった。
 俺達が演奏体制を整えて暫くすると、鐘の音が響き渡った。それも幾つもの教会や聖堂からだ。その鐘を合図に、俺達は演奏を開始したのだった。
 暫くは何事もなく、演奏もスムーズに進んでいた。団員達は多少緊張していたものの、そこに恐れはなかった。だが、そこへ外から悲鳴が上がったのだった。
 悲鳴を聞いて驚きはしたものの、それで演奏を中断させるわけにはゆかない。それはここへいる全員が承知している。それを理解していたルートヴィヒ神父は、俺達の代わりにと聖書を手に表へと飛び出して行ったのだった。
 俺はルートヴィヒ神父を心配したが、彼も神に仕える神父だ。そう容易く倒されはしないだろう。
 俺達は無心で演奏を続けた。アウグスト伯父や父達も、同じように演奏へと神経を集中させているはずだ。だが…その教会や聖堂の中に、多くの人々が恐怖に戦いて駆け込んで来たのだ。
 教会内は騒然となり、演奏が掻き消される程の悲鳴や怒号が響き渡る。そのため、俺は声楽演奏からオルガンへと切り替え、団員達には戸惑う人々を落ち着けるよう指示したのだった。
 俺はコンソールに座り一呼吸し、ストップを全開にして一気に鍵盤へと指を滑らせた。すると、その音に驚いて人々は騒ぐのを止めた。
 俺がここで演奏したのは、バッハの前奏曲とフーガ 変ホ長調 BWV.552。これは元来<クラヴィーア練習曲第3部>通称“ドイツ・オルガン・ミサ"のオープニングとエンディングを飾る曲で、前奏曲・フーガ共に力強い輝きを放つ音楽だ。
 この曲集全体は「3」という数字が支配し、前奏曲とフーガでは主題・部分・拍子、調性などがそうで、これと4つのデュエットを足すと自由楽曲が6(3×2)になる
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ