暁 〜小説投稿サイト〜
藤崎京之介怪異譚
case.6 「闇からの呼び声」
Y 同日.PM.9:28
[2/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
した。
「分かりました。私も直ぐに準備します。」
 俺がそう返答した時、食堂の扉が開かれ、何人もの団員達が入ってきた。
「先生、私達も行かせて下さい!」
「君達…聞いてたのか。しかし、これは今までとは桁が違う。大勢で赴けば、恐らくは犠牲者が出るだろう。」
「構いません!私達だって先生の弟子なんです。師が危険を承知で赴くというのに、弟子が安全な場所でのうのうと待つなんて出来ません!」
 俺は団員達を見渡し、その思いが本気であることを知った。
 だが…団員達を危険に晒すことなんて俺には出来ない。こいつらの気持ちは嬉しいが、それとこれとじゃ話が違う。今回のこれは…危険度があまりにも違い過ぎるのだ。
 今回のこれは、単なる<悪霊>なんかじゃない。一瞬にして人間を消し去り、その人間を八つ裂きにして降らせる…そんな邪悪なものが相手なのだ…。
 俺は団員達を無傷で一人残らず日本へと返さなくてはならない。誰一人欠けてはいけない。
 だが、そんな俺の思いを見透かしたかのように田邊が言った。
「どんなに危険でも、私は着いて行きます。もう…廃病院や歩道橋事件の時の様な思いはしたくありませんから。」
 田邊がそう言うと、他の団員達も口々に自分の思いを言い始めたため、俺はそれを制して言った。
「君達の思いは良く解った。しかしだ…全員を連れて行く訳にはいかない。それは理解しているな。」
 俺がそう問うと、皆は静かに頷いた。
「だから、今から俺が名を呼ぶ者だけを連れて行く。」
 俺はそう言うと、続けて声楽・器楽から数名の名を呼んだ。無論、田邊も中に入っていた。来るなと言っても、結局彼は無理にでも着いて来るからな…。
「先生。この人数ですと、モテットと小さなカンタータですね?」
「そうだ。モテットでは“イエス、我が喜び"と、“至高者よ、我が罪を贖いたまえ"。カンタータでは“我らが神は堅き砦"をやる。」
「先生…“至高者よ、我が罪を贖いたまえ"は、ペルゴレージの作品をバッハが編曲したものですし、カンタータではオーボエがないことになります。何故この選曲を?」
 田邊が怪訝な顔をして言ってきた。ま、そう言われるのは分かっていたが…。
「ペルゴレージはバッハが最晩年に高い評価を与えた作曲家で、その作品をバッハ自身が編曲している。それも、もっと宗教的にも広い意味合いをもつ歌詞に替えてだ。これもカンタータも、俺がオルガンでソロや低音を補充すれば充分演奏出来るからな。中にある歌詞が重要なんだよ。」
 俺がそう言うと、田邊は「よく分かりました。」と答えて下がった。それを見た団員達も、自らの戦いのために下がったのだった。
 ここからは精神的な戦いだ。残る者も赴く者も…。

 時間は刻一刻と過ぎ去って行く。決して止まって待ってくれはしない。俺達は直ぐに出発し、
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ