case.6 「闇からの呼び声」
X 12.19.PM7:41
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うだ。だが、その自殺の原因が問題だった。
ハインリヒの自殺の原因は…"愛"だったのだ。
ハインリヒ=フォン・ヴェッベルグ伯は、実は死の六年前に、とある公爵家の娘と婚姻を結んでいる。これは極一部の古文書にしかなく、どうも伏せられていたようだ。
伯爵の相手の名はエリーザベト=フォン・エルネスティ。しかし…この姫君にはある秘密があった。
「顔の左半分に火傷の痕があったんです。そのため、彼女は二十代半ばまで嫁ぎ先が見付からなかったそうです。」
そう付け足すと、メスターラー氏は話を先へと進めた。
エリーザベトは最初、ヴェッベルグ伯からの申し出を拒否した。自分の醜い容姿は承知しており、民さえ彼女を忌み嫌っていたことも知っていたからだ。
だが、父である公爵はそんな娘に追い打ちをかけるように、伯爵との縁談を断れば館から追い出すと脅したらしい。実の父ですら、彼女を恐れていたようだ…。
エリーザベトはそんな父の心を知ってか、涙を飲んで縁談の話を了承したのだった。
しかし、彼女がヴェッベルグ伯の元へ嫁ぐまでに一年を要したそうだ。何故なら伯爵のことを考え、裁縫から料理まで…貴族である彼女が遣らなくてよい筈のことを、自らが全て出来るようにするためだった。伯爵の使用人達のことさえ気に掛けていたのだ。
それだけではない。彼女は自らの醜い容姿を隠すため、幾つかの仮面作らせていた。それにかなりの時間を要したようだ。これさえ自分のためでなく、夫になる男性のためなのだ…。
そうして準備を整え、エリーザベトはヴェッベルグ伯の元へと嫁いだ。すると、そこには想像もしなかった世界が広がっていたのだった。エリーザベトは伯爵の元で、「愛」と「幸福」を手に入れたのだ。
ヴェッベルグ伯はエリーザベトの容姿をよく知っていたようで、それでいて縁談を申し込んだらしい。そのため、エリーザベトが仮面を着けることを伯爵は許さなかった。伯爵はそのままのエリーザベトを愛していたのだ。
二人の仲睦まじさは、そこで働く使用人達でさえ幸福にしたという。最初は確かにエリーザベトの容姿に驚愕したが、それさえはね除ける程に、エリーザベトとヴェッベルグ伯の愛は深かったそうだ。
だが…そんな幸福も長男が生まれるまでだった…。
「長男が生まれたと聞いた公爵は、理不尽にもその長男を取り上げ、公爵家の後継ぎに据えてしまったんです。理由として、公爵に男の子供が居なかったことが挙げられます。それ故、公爵はエリーザベトの子供を取り上げたんだと考えられます。」
そこまで言うとメスターラー氏は徐にお茶を啜り、そしてまた話を続けた。
息子を奪われたエリーザベトの悲しみは深く、それは伯爵とて同じだった。しかし、息子を取り返そうと公爵家へ幾度も足を運ぶものの、公爵は話し合うどころか顔すら出さなかった。
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