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藤崎京之介怪異譚
case.6 「闇からの呼び声」
V 12.10.PM8:50
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されぬ古文書に残された記録じゃが、その中の一部にゴッドリート・エルネスティの名が記されておったんじゃ。だがのぅ…ヴェッベルグ伯の死後、少なくとも百年は後の記録じゃ。名前もありふれとるものじゃし、とても同一人物とは…。」
 そう前置きして語った話は、恐るべき殺人鬼の記録だった…。
 今から五百年近く前。ある小さな村が、一人の男によって消し去られた。消し去られた…と言うのは大袈裟ではなく、文字通りその男に村人全員が殺されたことを意味していた。
 その男は、残忍極まりないやり方で村人を次々に殺していったと伝えられる。その内容は…ヴェッベルグ伯の伝承に近いものがあった。
 ゴッドリート・エルネスティ。古文書によれば、とある貴族の末裔で、幼少の時分は聡明で優しい子供だったという。だが、母が他の男と情事を交わしている現場を目撃してしまい、その後に人が変わってしまったのだという。
 彼の行動は、最初は小さな動物などを生きたまま焼くなど、まだ救いようのあるレベルだった。それは村人が止めていたそうなのだが、次には生きたままの動物を切り裂いて内臓を取り出したとか、頭を切り開いたとか…段々と残忍な性格を形成してゆき、行動もエスカレートしていった。犠牲になる動物も小鳥から猫や犬、そして羊や山羊…最後には人間へと移り変わっていったのだ…。
 だが、なぜ彼一人が小さな村とはいえ、その住人全てを殺害出来たのか?そしてその後、エルネスティはどこへ姿を消したのか?それは古文書に記されてはいなかったそうだ。エルネスティの生い立ちですら、当時の司祭がエルネスティに関わる人物から聞いたものに由来していて、彼がどこから来たのかさえ知られていないのだ。
「そういうことじゃ。このエルネスティは関係なかろう。ただ、同名というのが気になってのぅ。」
 話し終えたアウグスト伯父は、新しく運ばれたグラスでワインを飲んだ。
 全て聞き終えた俺達は、互いに顔を見合わせるしかなかった。
 第一に、ヴェッベルグ伯の話は、このエルネスティの話と混ざっていること。第二に、伯爵の執事だったエルネスティと村人を惨殺したエルネスティ。この二人が同一人物であったなら…いや、同一ということはないにせよ、少なからず血縁関係があったなら…伯爵は執事によって殺害された可能性が高いのではないか?ということだ。
 だが、伯爵を殺害したとしても、執事のエルネスティには何の得もない筈だ。それどころか伯爵家が絶えてしまえば、自身の執事の職も失うことになる。普通に考えれば、それは有り得ないだろう。
 当時のその村にはこれといって産業はなく、特産品があったわけでもない。好き好んで治めたい者も居なかったと思われるから、誰かに金で…とも考え難いのだ。
「そうですねぇ…。ヴェッベルグ伯の死後は、彼の遠縁にあたるヨーハン・ヘルムート・
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