case.6 「闇からの呼び声」
U 12.6.PM1:44
[5/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
っていれば、そのうち干上がってたかも知れないしな…。
「あ、そうそう。京之介、この間天宮さんに会ったぞ。」
「天宮さんに?どこで?」
「ニューヨークだ。私がそこでブラームスの第一交響曲を指揮した時、たまたま出張に来ていた彼が聴きに来てくれたんだよ。お前が今録音を続けてるオルガン全集なんだが、天宮さんが言うには、折角ドイツへ来ているのだからトーマス教会のオルガンで録音してみてはどうかと言ってたぞ。」
聖トーマス教会。バッハがその死の時までカントルとして勤めていた教会だ。近年、そのオルガンは修復され、様々なオルガニスト達が演奏している。
演奏したいのは山々なのだが、そう簡単に演奏出来る代物ではないはずだが…。
「父さん…トーマス教会のオルガンは、そう簡単に演奏させてはもらえないだろ?無理すれば、今教会でオルガニストを勤めているベーメ氏だって嫌な顔をするだろうし、他のオルガニスト達にも迷惑がかかるからね…。」
俺は呆れ顔で父に言った。有名な教会だけに、単に録音するだけでも大変だろうし、ミサなどの教会行事や演奏会、他のオルガニストの録音などで天手古舞な筈だ…。
「それは分かってる。そちらは私と天宮さんで掛け合うから、お前が遣りたいかどうかが問題なんだ。天宮さんは、ドイツ・オルガン・ミサとライプツィヒ・コラールを、是非トーマス教会のオルガンで録音してほしいそうだ。出来たらシンフォニア付きカンタータも同教会で録音してほしいとも言ってたがな。」
「はぁ?ライプツィヒ・コラールは録音済だぞ?」
「いや、初稿だ。オルゲルビュヒラインは異稿付きで録音したじゃないか。ライプツィヒ・コラールも初稿を入れたいそうなんだよ。」
ライプツィヒ・コラールは、バッハが晩年に若かりし頃に書いたコラールに手を加えて編纂したものだ。十八のコラールとも呼ばれ、各々に初稿が存在する。曲によっては二つの異稿が存在するため、初稿・異稿だけでも充分な量になるが…。
「オルゲルビュヒラインは天宮さんがどうしてもって…。まぁ…考えとくよ…。」
ま、ライプツィヒ・コラールは兎も角、ドイツ・オルガン・ミサはバッハがトーマス教会カントルに就任してからの作品だし、同じ教会のオルガンであれば響きも適しているだろうがな…。
そんなことを話しているうちに、俺達は宣仁叔父の部屋へと入った。必要最低限のものしかない質素な部屋たが、何だか暖かな印象がある。窓からの陽射しが部屋を照らし出しているからかも知れないが。
中へ入ると、俺達はそれぞれ椅子に腰掛け、例のアンデレ教会の一件について話始めた。
「で、父さんは何故こんなとこへ?」
「おいおい…私も一応は教会へ仕えていたこともあったんだぞ?もう少し頼ってくれても良いじゃないか。」
「いつの話をしてるんだよ…。父さんがプロテスタントの牧
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ