巻ノ十八 伊勢その十三
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「その様にな」
「まあな、戦は時としてそうしたこともある」
穴山も霧隠と同じ様な顔になって述べた。
「相手を皆殺しにすることもな」
「実際には滅多にないがな」
清海はこう穴山に返した。
「やはりあるな」
「うむ、前右府殿がここでされた様なことがな」
「よく前右府殿は血を好む酷い方と言われていますが」
ここで伊佐が言うことはというと。
「実は違いまして」
「何っ、敵は皆殺しにはせぬのか」
由利が思っている信長はそうなのだ、世間では信長はよくそうした男だったと言われている。敵は容赦なく殺戮する男だと。
「何かあるとすぐに手討ちにもしたというし」
「それは全て俗説でして」
「実はか」
「違うのです」
こう由利にも話す伊佐だった。
「あくまで最低限で、です」
「殺生はしておられぬか」
「裏切りが常とも言われていますが」
信長の悪評の中にはこうしたものもある、そうしたことからも様々なことを言われてきている人間だったのだ。
だが伊佐はだ、こう言うのだ。
「ご自身からされたことは」
「そういえばないのう」
ここで由利も気付いた。
「浅井家とのことにしてもな」
「そうですね」
「思えば朝倉攻めは最初からわかっていたことだしな」
「織田家と朝倉家は共に斯波家の被官であったが朝倉家の方が格上であった」
ここで幸村が言った。
「そして織田家を見下し前右府殿が上洛されてから恭順を促されてもな」
「従いませんでしたな」
筧も言う。
「そしてその結果」
「戦となった」
「流れを見ていれば織田家と朝倉家との戦は避けられぬものでした」
織田家としても面子を潰されている、それではなのだ。
「しかも近江を通って攻められています」
「事前に言うも何もない」
「そうです、ですから」
「裏切ったのは浅井家の方、他にもな」
「前右府殿はご自身から裏切られておりませぬ」
伊佐はまた言った。
「そうした方でした」
「長島してもそうであり」
また言った伊佐だった。
「最低限の殺生しかせぬ方でした」
「その前右府殿が生まれ育った国に向かおうぞ」
信長は家臣達にはっきりと告げた。
「これよりな」
「はい、それでは」
「長島から」
家臣達も主の言葉に頷いてだった、長島からだった。
尾張に向かった、その信長が生まれ育った国に。
巻ノ十八 完
2015・8・6
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