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大刃少女と禍風の槍
七節・始まりの最上階……その最奥を目指す
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りゃ、自分の番のときにゃ緊張するだろう? 同じだわな」


 其処で一旦パイプを口から外し、プルーベリー色の濃い煙を吐き出す。


「日常とも一緒……口に出す事も無いのに、長々くっちゃべる奴がいねーのと同じでな。結局の所どんな事だって、極論つき詰めりゃ『話すも黙るも空気次第』ってのだろうよ」
「……ふふ」


 その微かな声にキリトは思わず目を傾ける。
 今の今まで不機嫌面しかしてこなかったアスナが、グザの発言で少しばかり笑ったのだ。
 彼にしてみれば、驚くべき事なのだろう。


「おや、何か可笑しい事言ったかい?」
「だって、この世界は究極の非日常なのよ? なのにそんな中で “日常と同じ” って言ったから、つい」
「ヒハハ、なるほど……だが、日常にもなるだろよ? 何せボス攻略は一回ポッキリじゃあねーわな。なら強制的に日常に引き上げられる日も、そう遠くない内に来ちまうやね」
「確かにな」


 グザの言葉を引き継ぐ形で、キリトもまた喋り出す。


「此処に来るまでもう丸々四週間はかかってる。攻略そのものとくれば最低でも二、三年は覚悟した方がいい。其処まで続けばグザの言う通り、流石に非日常も日常になるさ」


 二人の言葉を耳へ入れたアスナは、表情こそ余り変わらぬもまたも黙る。

 衝撃を受けたのだろうか、それとも絶望を感じたか……逆に、諦念が心に生まれたのか。


「……強いのね、あなた達……。この先の見えない虚ろな世界で、何年も戦って生き続けるなんて……私には死ぬ事よりもずっと怖く思えるわ」
「上層にたどりつければ、もっとすんごいお風呂だってあるのになぁ〜」
「! ほ、ほんと?」


 条件反射の様な物だったのだろう。
 先まで暗い空気を漂わせていたアスナが、思わず顔を輝かせて訊き返してしまい、羞恥に顔を赤くして今度こそをソッポを向く。

 グザの方へチラと視線を傾ければ、下へ向けた顔とヘアバンドにも似た頭装備、そして影の所為で表情こそ見えにくいが……目に見えて肩を震わせていた。


「ク、クククッ……ククヒヒヒィ……ッ」
「この……っ!」


 遂には微かな、堪えた笑い声まで聞こえる始末。

 より顔を真っ赤に染めたアスナは、問題を起こした張本人であるキリトへ詰め寄る。


「あなた思いだした、わね? ……腐った牛乳、ホントに一樽分飲ませるからね」
「なら、せめて今日生きて帰らないとな」
「ブフッ! クハァヒヒハハハ! ヒヒハハハハハァ!」
「〜〜〜っ!」


 キリトのニヤリとして告げられる皮肉で睨みを躱され、グザにも我慢出来ないばかりにと大声で笑われて、結局アスナは益々顔をトマトの様にしてしまうのであった。


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