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妄執
6部分:第六章

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第六章

 だが和尚はである。寺の中で小僧に対して話すのだった。居間の中で向かい合って座りながらである。
 まずは和尚から言ってきた。
「それでじゃ」
「はい」
「もう鬼のことはわかったな」
「人が妄執でなるものですね」
「その通りじゃ」
 それはそのままであった。
「それはじゃ」
「恐ろしいことですね。しかし」
「しかし?」
「あの時のことですけれど」
 鬼を退治した時のことを問うてきた小僧であった。叔父であり師匠でもある彼の顔を見ながらだ。首を少し捻りながらの問いであった。
「何故お札だったのですか?」
「あれか」
「はい、お経ではなく」
「お経は書いてあった」
 こう答える和尚であった。
「お札にな」
「書いてあったのですか」
「そうじゃ」
 まさにそうだというのである。
「書いてあった」
「お札にお経をですか」
「それがわからないか」
「ええ、どうにも」
 首をさらに傾げさせて答える小僧だった。
「何故なんですか?お札を」
「言ったな。毒には毒じゃ」
「毒にはですか」
「あの人はお金への妄執で鬼になったな」
「ええ、それは」
 これはもう言うまでもないことであった。既にである。
「その通りですね」
「そういうことじゃ。それではその妄執を断ち切るのもじゃ」
「お金なんですか」
「左様、だからお札を使ったのじゃ」
 だからだというのである。和尚は静かに語っていた。
「その妄執を断ち切り成仏させる為にな」
「そうだったのですか」
「ものによる妄執で鬼になることもあればじゃ」
「それによって成仏することもあるのですか」
「そういうことじゃ。よく覚えておくのじゃ」
 静かに小僧に対して語る。
「このことはな」
「はい、わかりました」
 小僧は彼の言葉に静かに頷いた。
「それは」
「人は深いものじゃ」
 和尚はまた言った。
「妄執で鬼にもなればその憑かれたものでも成仏する」
「同じもので、なのですね」
「憑かれもすれば清められもする」
 彼の言葉は続く。
「そういうものじゃ。覚えておくことじゃ」
「わかりました」
 彼の言葉にまた静かに頷く小僧だった。彼は深いものを学んだのだった。人というものを。


妄執   完


                 2010・1・17

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