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妄執
5部分:第五章
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第五章

「それでもじゃ」
「それでもですか」
「そうじゃ。見ておくのじゃ」
 こう甥でもある弟子に対して話した。
「よいな」
「わかりました。では」
 こうして彼は小僧を連れて葬儀場を後にした。そうして向かうのは。
 銀行であった。襲撃を受けた銀行とは別の銀行だ。まだ朝早くなので誰も出社してきていない。その銀行の前に来たのである。
「どうして銀行の前に?」
「あの朝の話じゃが」
「あれはまさか」
「間違いない」
 彼はもうわかっていた。
「キンさんの仕業じゃ」
「じゃあ銀行のお金を」
「そうじゃ。妄執故でだ」
 それでだというのだ。
「お金を奪い取ったのじゃ」
「そういうことが続けば」
「恐ろしいことになる。よいな」
「はい、キンさんをですね」
「鎮める」
 和尚は険しい顔で言った。
「よいな」
「わかりました」
 こう話して銀行の前に立つ。するとであった。
 死に装束の女が朝もやの中から姿を現してきた。道をゆらゆらと歩いてきている。
 その手には札束がある。しかと握り離さない。服の中からもそれが見える。目は赤く禍々しく光っており口は耳元まで裂けていた。白い髪が蠢いている。
 まさに鬼であった。その鬼を見て小僧は。その顔をまた蒼白にさせた。
「御師匠様、これは」
「案ずることはない」
 鬼を見たまま彼に返す和尚だった。
「すぐに終わる」
「私達が首をひっこ抜かれてですか?」
「それもない」
 小僧の危惧はすぐに引っ込めさせた。
「別にだ」
「だといいんですけれど」
「既に手は用意してある」
 和尚は鬼を見続けていた。その鬼をである。
「いいな、それでだ」
「それじゃあ一体」
「金・・・・・・」
 鬼が言葉を出してきた。
「金、金・・・・・・」
「やっぱりこの銀行も」
「間違いない」
 それはもう言うまでもなかった。
「襲って中の金を奪い去るつもりだ」
「そこまでして金をですか」
「死んでもう何もかもがわからなくなっているのだ」
 残っているのは妄執だけだと。そういうのである。
「まさに鬼だ」
「鬼・・・・・・本当に」
「どくのじゃ」
 鬼の赤い目がさらに光ってきた。
「さもなければうぬ等の首を引っこ抜いてくれる」
「やっぱりこう言ってますけれど」
「案ずることはない」
 小僧の危惧にまた答える和尚だった。
「すぐに終わる」
「じゃあ何をするんですか?」
「これを使う」
 言いながら懐から出してきたのは財布であった。そしてその財布の中から。
 出してきたのは一枚の札であった。一万円札である。
 それを見て小僧は。思わず怪訝な声を出してしまった。
「お札ですか」
「左様」
 まさにその通りだという和尚だった。
「その通
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