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第一章
妄執
金が全て、そう言っていた。
言っていたのは一人の老婆だ。名前を葛西キンという。
夫に早くに先立たれ身寄りはなかった。それで生業として金貸しをしていた。そちらで才能があったのか忽ちのうちにかなりの金持ちになった。
しかしであった。その資産家の彼女の評判はだ。
「あの因業婆」
「あくどく儲けやがって」
「守銭奴が」
こんなものだった。要するに金の亡者だったのだ。
だが本人はそれを聞いてもだ。一向に悔い改めない。あくまで金に執着し続けていた。
その彼女の言葉である。
「世の中金じゃ」
よく言われる言葉ではある。
「金が全てじゃ。金は裏切らん」
金のことしか考えなくなっていたのである。そうして飽くなきまで金を集め続けていた。
資産は増えていく。しかしその生活はだ。
質素であった。ぼろぼろの一軒家に暗い灯りで粗末な布団の中に寝て着ているものもつぎはぎだらけである。食べるものも漬物や麦飯だけであった。
「贅沢したら金が減る」
だからだというのだ。
「金は使ったら減るものじゃ」
こう言ってそうした生活を続けていくのであった。
そんな彼女を見てだ。世間の者はまた言うのであった。
「完全にだな」
「ああ、全くだ」
「金に憑かれてるな」
「完全にな」
それを察しての言葉であった。
「あのままいったらな」
「どうする気だ?一人身だろ?」
「資産とかどうするんだ?」
そのことも話されるのであった。
「老い先短いのにな」
「どうせな」
「もう何時死んでもおかしくない歳だしな」
彼女の意思とは別にこんな話も為されていたのだ。
「それでもあそこまで貯めてな」
「どうする気なんだか」
「金はあの世に持っては行けないのにな」
そしてこの話はである。ある寺にも入っていた。キンが住んでいる街の寺である。
その中の畳の一室で小僧が和尚に対して彼女の話をしていた。二人はそれぞれ座布団に座り正座をして話をしているのである。
まず小僧が。謙遜した様子で黒い法衣と金の袈裟の和尚に対して言ってきた。小僧の歳は十歳程度で和尚は五十程度である。
「あの、和尚様」
「キンさんのことだな」
「はい、そうです」
「わかっている」
和尚は法衣の中で腕を組みながら静かに小僧の言葉に応えたのだった。
そうしてそのうえで。こう言うのであった。
「あの人はだ」
「どう思われますか?」
「よくないな」
こう言うのである。
「あの有様はよくない」
「そうですか。やはり」
「完全に金に取り憑かれている」
彼もまた同じことを言った。市井の人達とである。
「あれだけ金に執着していてはだ」
「お金はこの世だけのもの
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