暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
思いと望み
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かに頬を赤くしながら目を細めた。
 気に入ってくれたらしいと、男性もつられて微笑み返す。

「こちらこそ、ありがとうございます。おかわりは好きなだけどうぞ」

 そういえばお茶に合うお菓子があったなと、男性が立ち上がり。
 事務机の棚を漁って振り返ると、女性の姿は忽然と消えていた。

「……お忙しい方のようですね」

 四つ足のローテーブルに空のカップを戻し。
 その横に、お礼のつもりなのか、白い百合を一輪置いて。

 結局、彼女は何をしに来たのだろうと首をひねる。
 悪意らしきものは少しも感じなかった。
 ただ、そこに居ただけ。
 何をするつもりもなく、居ただけ。

「彼女が安らぎを得られると良いのですが」

 置かれた百合を手に取り、瑞瑞しい花弁を鼻先に寄せる。
 少しだけめまいがしたのは、思ったより強い香りのせいだろうか。



 あの人は大丈夫。
 あの人には、私に対する敵意も害意も無かったし。
 好意も何も無かったから、きっと大丈夫。

 温かい。
 本当に温かい飲み物は、とても久しぶり。
 涙が零れるくらい、温かかった。

 優しい人は居る。
 どんな世界でも、どんな状況でも、優しい人は必ず居るんだ。
 私もそんな存在になりたくて……でも、なれなかった。

「クロスツェル……」

 草原で時間を止めたまま眠る男性の冷たい額に触れる。
 ぴくりともしない体に、また涙が溢れてきた。
 彼の頬にぱたぱたと落ちて弾ける滴は、だけど彼を解かしてはくれない。
 私に優しくしてくれていた彼は、時間を進めれば本当に死んでしまう。
 もう、笑いかけてはくれない。
 大切にしたいものは、いつだって指の間をすり抜けて。
 私一人を置いて、消えていく。

 いつからだったろう?
 世界に問いかけるのをやめたのは。

「クロス…… っ!?」

 突然。
 クロスツェルの体が目の前から消えた。
 空間移動。
 理解した瞬間に、彼が連れ去られた場所へ跳ぶ。

「レゾネクト!!」

 クロスツェルの体を足元に寝かせて、彼は山中の崖先に立っていた。
 遥か遠くまで広がる樹海を背負い、青空に流れる白い雲を翼にして。
 悠然と笑っている。

「返して! 彼には危害を加えない約束だわ!!」

 崖の上……クロスツェルを落とすつもりなの!?
 時間を止めている間なら、何があっても怪我はしない。
 でも、レゾネクトは時間を操れる。
 もしも動かしてしまったら……!

「レゾ……!!」

 数歩先に歩み寄ったところで、レゾネクトの姿が消え……

 違う。
 空間を跳んで、私の背後に回った。
 両腕を封じる形で後ろから抱えられ。
 何をするの
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