思いと望み
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
かに頬を赤くしながら目を細めた。
気に入ってくれたらしいと、男性もつられて微笑み返す。
「こちらこそ、ありがとうございます。おかわりは好きなだけどうぞ」
そういえばお茶に合うお菓子があったなと、男性が立ち上がり。
事務机の棚を漁って振り返ると、女性の姿は忽然と消えていた。
「……お忙しい方のようですね」
四つ足のローテーブルに空のカップを戻し。
その横に、お礼のつもりなのか、白い百合を一輪置いて。
結局、彼女は何をしに来たのだろうと首をひねる。
悪意らしきものは少しも感じなかった。
ただ、そこに居ただけ。
何をするつもりもなく、居ただけ。
「彼女が安らぎを得られると良いのですが」
置かれた百合を手に取り、瑞瑞しい花弁を鼻先に寄せる。
少しだけめまいがしたのは、思ったより強い香りのせいだろうか。
あの人は大丈夫。
あの人には、私に対する敵意も害意も無かったし。
好意も何も無かったから、きっと大丈夫。
温かい。
本当に温かい飲み物は、とても久しぶり。
涙が零れるくらい、温かかった。
優しい人は居る。
どんな世界でも、どんな状況でも、優しい人は必ず居るんだ。
私もそんな存在になりたくて……でも、なれなかった。
「クロスツェル……」
草原で時間を止めたまま眠る男性の冷たい額に触れる。
ぴくりともしない体に、また涙が溢れてきた。
彼の頬にぱたぱたと落ちて弾ける滴は、だけど彼を解かしてはくれない。
私に優しくしてくれていた彼は、時間を進めれば本当に死んでしまう。
もう、笑いかけてはくれない。
大切にしたいものは、いつだって指の間をすり抜けて。
私一人を置いて、消えていく。
いつからだったろう?
世界に問いかけるのをやめたのは。
「クロス…… っ!?」
突然。
クロスツェルの体が目の前から消えた。
空間移動。
理解した瞬間に、彼が連れ去られた場所へ跳ぶ。
「レゾネクト!!」
クロスツェルの体を足元に寝かせて、彼は山中の崖先に立っていた。
遥か遠くまで広がる樹海を背負い、青空に流れる白い雲を翼にして。
悠然と笑っている。
「返して! 彼には危害を加えない約束だわ!!」
崖の上……クロスツェルを落とすつもりなの!?
時間を止めている間なら、何があっても怪我はしない。
でも、レゾネクトは時間を操れる。
もしも動かしてしまったら……!
「レゾ……!!」
数歩先に歩み寄ったところで、レゾネクトの姿が消え……
違う。
空間を跳んで、私の背後に回った。
両腕を封じる形で後ろから抱えられ。
何をするの
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ