暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
思いと望み
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りが目を光らせているし。
 窓に面した庭園にも、壁に貼り付いて登る盗賊を警戒する護衛がたくさん居る。
 女性、それも()()が平然とこの室内に居て、騒ぎになっていない時点で、異常事態は始まっていた。

「貴女の御高名ぶりと昨今のお噂はかねがね承っております、女神アリア。本日はどのような御用件でしょうか」
「……貴方は……私の姿を見ても、冷静でいられるのですね。初めてです。こんな現れ方でも、普通に声を返してくださった方は」

 それはそうだろうと男性は思う。
 女性は美しい。あまりにも美しすぎる。
 容姿もそうだが、放つ気配が清浄すぎて現実味がまったく感じられない。
 よく見える幻です。と聞かされても、あっさり納得してしまいそうだ。
 並の人間なら、おそらく数分間は黙り込んで鑑賞したがるのだろう、が。

「他の宗教関係者がどうかは知りませんが、私はゼクス教団の長として立つ自分に責任と誇りを感じておりますので。たとえ、貴女が正真正銘、本物の創造神だとしても、貴女に仕える気は毛頭無い。それだけの話ですよ」
「……そう……」

 おや? と首を傾げたのは、女性がどこか嬉しそうに微笑んだから。
 彼女と会った宗教関係者はもれなく改宗希望者に堕ちると聴いたのだが。
 どうやらそれは、目の前の女性が望むことではないらしい。
 男性はしばらく考え込み、備え付けのティーセットに手を伸ばした。

「とりあえずお茶でもいかがですか? 自家製ではありますが、精神安定と気分転換によく効くハーブがあるのですよ」
「! ……何故?」
「そんなに落ち込んで疲れた顔をしていたら、私でなくても分かる人間には分かります」

 美しい女性は、蒼白な顔色でさえ、その美貌の一助にしてしまっている。
 これほどまでに憔悴しきっている顔を見ても浮かれるしかできない無能な人間ばかりだったとは、聖職者が聞いて呆れるな。と、男性は苦笑い。
 ひとまず来客用の椅子に座らせ、手早くお茶を淹れて差し出した。
 浅く腰掛けた女性は、上品な仕草で純白の陶製カップをそっと手に取り。
 果物に似た、ほのかに甘い花の香りを確かめる。

「……優しい香り……」
「私のお気に入りです。ゆっくりしていかれると良いですよ」

 男性も女性と向かい合って椅子に座り、お茶を口に含む。
 ついさっきまで、アリア信仰は危険だ! 放置してはならない! だの、今こそ教団の正しき教えを奴らに示すべきだのと、無責任極まりない発言の嵐に襲われていたせいか、柔らかな喉ごしがいつもより速く体に浸透する。
 ふぅ、と息を吐くと、手足の指先まで全身がポカポカと温かくなった。

「美味しい。こんなに優しい飲み物は久しぶり。ありがとうございます」

 女性も一口飲んで、わず
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