思いと望み
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アの額に左手を翳し、激しく動揺する意識を閉ざす。見開いた両目の光が消え、彼女の体から力が抜ける。だらんと横たわる裸体の横に座り、目蓋を閉じさせて、落ちた涙を唇で掬う。
「見届けろと言った。そうでなければ、面白くないだろう?」
望み通り教えてやる。
見せてやろう。俺とアリアで今度こそ、必ず。
だから壊しはしない。
壊れるなら、その前に。
「……アリアには自覚が必要だな」
「!」
役員による臨時の会議を済ませ、午後の礼拝前に一息入れようと自室の扉を開いた男性が見たものは、其処に居る筈がない人影。
(なるほど……これでは確かに、参ってしまうのも無理は無いか)
一歩足を踏み入れ、他の者が室内を覗かない内に素早く扉を閉めて鍵を掛けた。
人影は身動きもせず、じっと男性の顔を見つめる。
「どちらからお入りになられましたか? ……などという質問すら、無粋に思えてしまいますね」
男性が部屋を空ける時は必ず、総ての窓と扉に施錠する。加えて扉の外には常時二名の見張りが目を光らせているし、窓に面した庭園にも、壁に貼り付いて登る盗賊を警戒する護衛がたくさん居る。
女性……それも「彼女」が平然とこの部屋に居て騒ぎになっていない時点で、異常事態は始まっていた。
「お噂はかねがね承っております、女神アリア。本日はどのような御用でしょうか」
「……貴方は私を見ても冷静なのですね。初めてです。こんな現れ方でも普通に声を返してくださった方は」
それはそうだろうと男性は思う。
女性は美しい。あまりにも美しすぎる。
容姿もそうだが、放つ気配が清浄すぎて現実味が全く感じられない。よく見える幻です。と聞かされても納得しそうだ。並の人間なら恐らく数分は黙り込んで鑑賞したがる。
が
「他の宗教関係者がどうかは知りませんが、私はこの教団の長として立つ自分に責任と誇りを感じておりますので。例え貴女が正真正銘の創造神だとしても、貴女に仕える気は無い。それだけの事ですよ」
「……そう……」
おや? と首を傾げたのは、女性が何処か嬉しそうに微笑んだから。彼女に会った宗教関係者はもれなく改宗希望者に堕ちると聴いていたのだが……どうやらそれは目の前の女性が望む事ではないらしい。
男性はふむ。と、暫く考え……
「とりあえず、お茶でもいかがですか? 自家製ではありますが、沈静と気分転換によく効くハーブがあるのですよ」
「! 何故……」
「そんなに落ち込んで疲れた顔をしていたら、私でなくても判る人間には判ります」
美しい女性は、顔色の悪ささえその美貌の一助にしてしまっている。これほど憔悴した顔を見ても浮かれるしかできない人間ばかりだったとは……聖職者が聞いて呆れるな。と、男性は苦笑う。
来客用の椅子に
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