不明瞭な結末の後に
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愛紗も言わない。
三人がかりでも勝てなかった飛将軍との戦闘よりこちら、愛紗も武を磨きに磨いた。
そして嘗ての仲間が自分達の元を離れた時より……無意識でその男を頼っていた心に気付き、それを捨てた。
薄氷の上で舞踏を刻むように、自らの命を対価に乗せて、しかして投げ捨てることはせず、劉備軍一の将として戦うことを選んだ。
現在の所属武将では、武力は鈴々の方が上、柔軟さは星の方が上、器の広さは白蓮の方が上。
ならば愛紗は如何する……答えは始めから分かっている。
いつでも変わらないこと。
いつでも愚直に、確たる芯を以って折れないこと。
最後に……一度たりとて敗北しないこと。
愛紗は劉備軍の中核で、己自身も皆も言葉には出さずとも認識を置いている。彼女無くして劉備軍は有り得ない、と。
例えば魏の夏候惇のように。例えば西涼の馬超のように。例えば袁家の二枚看板のように。例えば孫呉の孫策のように。
支柱として存在する武将であるが故、彼女達は負けてはならない。彼女達の敗北即ち軍の死、そして王の死と捕らえてもなんら違和感はない。
掛かるは想いの重責。主の代替であるという使命と責務。双肩に乗るモノはいわば国そのものに等しい。
それが彼女の力となり、彼女の武力を高めていく。主の為に、ではなく世の為に。それが桃香の願いであり、愛紗の願いでもあるのだから。
――孟獲、そして南蛮の者達……謝罪はしないぞ。
言い訳を挟むことなく彼女は思考を回す。
嘗ては受け入れられなくて拒絶した。かの洛陽で、彼を悪だと否定した。
この現状はあの時と同じだ。一方的に誰かを悪と断じて戦に参加したあの時とほぼ変わらない。言葉を交わしたとはいえ、真実は未だに闇の中なのだから。
――謝罪は侮辱と同義。謝るくらいなら……初めから関わらないでおくべきなのだ。
傍観者と詰られようと、誰かを傷つけるくらいなら動かないでおくべき。
人が死ぬからには、結果として自分達が間違っていたでは済まされない。
今なら、きっとあの時の彼の気持ちが少しは理解出来る。些か遅すぎたと自嘲が込み上げ心が沈んだ。
“自分が救わんとする人”の中に目の前の少女達は入っていない。それは罪深く、愚かしい矛盾の事柄。
自分達が間違っていたなら悪であり、勘違いから攻めてしまいましたでは終わらせられない。
――ああ、簡単なことだった。
自分達は曹操と変わらない。従えるか諦観させるかの違いでしかなく、刃を向けた時点で全く以って同じなのだ。
自責か、はたまた罪悪感か。憂う心がギシリと軋む。
動きに乱れはなくとも、寄せられた眉根の深さが彼女の心を表していた。
――しかし……っ
ただ、愛紗としても譲れない線がある。
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