第二十話 それぞれの戦後(その2)
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ーリッヒは養子であって婿養子ではないでしょう? 他の人に取られたくないそうよ」
妻は可笑しそうに笑みを浮かべている。
「冗談か?」
「いいえ、本当の事」
「焼き餅か?」
「ええ」
焼き餅? エリザベートはまだ十五だろう。それなのに焼き餅? わしが唖然としていると妻が話しかけてきた。
「あなた、エリザベートはもう十五よ。焼き餅だって焼きます」
「そうなのか? エリザベートはまだ子供だろう」
妻が笑った。呆れた様な顔をしている。どうせ女心が分からないとか言い出すのだろう。その通りだ、女子供の考える事はさっぱり分からん。
「先日の舞踏会ですけど、グリューネワルト伯爵夫人がエーリッヒと話をしていたでしょう。伯爵夫人はいつもは挨拶だけで殆ど喋らないのに」
「……」
グリューネワルト伯爵夫人か……。動きそうになる表情を必死で抑えた。あの時はつい胸元に目がいってしまい、妻に酷く怒られた。機嫌を取るのにルビーのネックレスが必要だった程だ。リッテンハイム侯も同じだと言っていたな、侯はサファイアのイアリングだったとか……。別に触ったわけでもないのに何故そんなに怒るのか、理不尽ではないか。もしかすると宝石を買わせる口実かもしれん……。
「それに、エーリッヒがミューゼル大将を何かと贔屓にするでしょう。貴族の令嬢達の間ではそれをグリューネワルト伯爵夫人と結びつける者がいるそうですわ。特に先日のコルプト子爵の一件からは……」
「くだらん」
馬鹿げている。エーリッヒがあの金髪の小僧を贔屓にするのは彼を味方に取り込もうとしての事だ。伯爵夫人の事など何の関係もない。伯爵夫人がエーリッヒに声をかけるのもエーリッヒにあの小僧の事を頼もうとしての事だろう。或いはコルプト子爵の一件での礼も有るかもしれない。そういう意味ではあの二人の関係は極めて親密だが、政治的な物だ、恋愛ではない。
むしろ驚きはグリューネワルト伯爵夫人がそのような政治的な動きをした事だ。エーリッヒの将来性を買ったのか、或いは信頼できると踏んだのか、どちらにしてもこれからは伯爵夫人の動きにも目を配る必要が有る。危険視するわけではないが注意は必要だろう。
「分かっていますわ、貴方が何を考えているか。でも皆が噂している事は事実ですし、エリザベートとエーリッヒが正式に婚約していないのも事実です」
「ふむ」
確かに婚約はしていない。皇帝陛下よりエーリッヒの養子を認めてもらった事で婚約の許可が下りた、そういう認識だった。あえて婚約の発表はしなかったが……。
「どうされました、貴方」
「いや、なんでもない。……良いだろう、婚約を発表しよう」
「……」
妻がわしの顔を見ている。予想外の反応だったか……、だが婚約を発表するなら今だ。今がその時だろう……。
「いささ
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